ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Garden of Evening Mists” 雑感

 いよいよブッカー賞ショートリストの発表が近づいてきた。日本時間だと12日の早朝だろうか。それまでには読了できそうにないが、とりあえず Tan Twan Eng の "The Garden of Evening Mists" を読みはじめた。William Hill がなぜか文字化けしてしまうので、Nicerodds. co. uk というサイトを調べると、10.00倍で Nicola Barker の "The Yips" ともども第4位。ちなみに、ぼくが今まで読んだ候補作の中で唯一、☆☆☆☆をつけた Alison Moore の "The Lighthouse " は13.00倍で第7位。アマゾンUKの Literary Fiction 部門では、"The Lighthouse" が14位、"The Garden of Evening Mists" が19位となっている。まあ、下馬評や売れ行きなどどうでもいいのだが、まったく気にならないと言えばウソになる。
 Tan Twan Eng は、07年にもデビュー作の "The Gift of Rain" でロングリスト入りを果たしたマレーシアの作家だ。同書はパスしてしまったので新しい候補作を読むことにしたのだが、これ、日本人にはなかなか耳の痛い作品ですな。太平洋戦争のとき、当時のマレーにあった強制収容所の唯一の生存者だという女性が主人公だからだ。左手の指が2本ないのは拷問によるものらしい。
 が、中心となる話題は今のところ収容所での体験ではなく、その女 Yun Ling Teoh が1951年、マレーの山奥にある Yugiri という日本庭園で、亡命日本人の庭師 Nakamura Aritomo に弟子入りして造園術を学んだときのことである。のこり半分近くは現代の物語で、マレーシアの最高裁判所判事をつとめていた Yun Ling が失語症を患い、定年前に退職。 Aritomo が謎の失踪を遂げたあと所有していた Yugiri に戻り、荒れ放題となっていた庭園の復旧に取りかかる。
 いちばんの読みどころはもちろん、日本人を憎んでいる Yun Ling と、元は天皇おかかえの庭師だったという Aritomo のからみである。Yun Ling の姉は日本庭園が大好きだったが収容所で死亡。その遺志を継いで、Yun Ling が Aritomo に庭造りを頼んだところ拒否されるが、弟子入りして自分で造れるようになればいい、とのこと。
 Aritomo は庭師であるだけでなく弓道もこなし、Yun Ling も弓を習うことになる。このときにかぎらず、たとえばお辞儀ひとつとっても、収容所で強制された習慣ということで昔の傷がよみがえるものの、彼女は次第に庭園や弓道、Aritomo がほかにも得意とする木版画や刺青などの魅力に惹かれていく。じつはぼくは大学時代、体育で弓道を選択したので、このあたりの描写はかなりピンとくる。庭造りその他のほうは、まあそんなものだろうなという程度だ。
 小説としての長所欠点がだいたいわかってきたところだが、今日はもうバテバテなのでおしまいにしよう。