ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Aharon Appelfeld の “Blooms of Darkness” (1)

 今年のインディペンデント紙外国小説最優秀作品賞(Independent Foreign Fiction Prize)の受賞作、Aharon Appelfeld の "Blooms of Darkness"(2006)を読了。作者はイスラエルの作家で、ヘブライ語からの英訳である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] ホロコーストの悲劇は永遠に語り継がれていく。今回はユダヤ人の少年が母親の友人の売春婦にかくまわれ、クロゼットのなかに隠れ住む物語。思春期前の純真さゆえ状況がよく飲みこめない少年と、酒好きで感情の起伏は激しいが愛情豊かな売春婦のふれあいが中心だ。恐怖、凄惨、悲惨といった定番の要素は意外に少ない。平和な時代の回想や、生き別れになった両親友人たちの夢もふくめた室内劇が大半で、当初は、現実逃避を通じて現実を象徴するという寓話的な色彩さえある。閉鎖空間のなかでふたりの心はしだいに結びつき、終盤、野外を放浪するようになってからも、彼らは絶望に耐えながら愛情をますます純化させる。売春婦と少年の組みあわせから連想する淫行とは正反対で、暗い悲劇に直面しても光り輝く人間の心は文字どおり「闇の花」。その美しさを謳った佳篇である。