ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Cesare Pavese の “The Political Prisoner” (2)

 まず昨日の続きから。昼間にネットでこのブログを検索すると、昨日は更新されなかったことになっていた。疑心暗鬼かもしれないが、またもや「無かったことにする」動きがあったのでは、と思いたくなる。〈不都合な真実〉は消せ、ということでしょうか。
 閑話休題。やっと "The Political Prisoner" の落ち穂拾いをするまわりになった。ぼくは恥ずかしながら知らなかったのだが、これ、邦訳が出ていました。

流刑 (岩波文庫)

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 というわけで、この名作を読むのは今回が初めてだったが、世界にはまだまだ未読の、未知のすばらしい作品があるんだな、と当たり前のことを今さらながら痛感。8月からスタートした〈世界文学の夏〉シリーズの中では、この "The Political Prisoner" にいちばん感銘を受けたと言ってもよい。あ、Dostoevsky もすごかったし、Sebald も忘れがたいですな。
 無知なぼくでも、Pavese がマルクス主義者であったことと、投獄の経験があり、自殺を遂げたことくらいは知っていた。獄中生活はもちろん、自殺の件も、これほど孤独な思いをしたのなら、となんとなく想像がつくのだが、本書で秀逸な点のひとつは、まったく政治臭さがないところである。これは左翼文学でもなんでもない。ひとりの人間の心から絞りだされた苦しい思いを「極力感傷を抑え、美しい心象風景の中にえがきこ」んだものだ。
 心にしみる一節を引用しておこう。'We are in this world to torture each other.' (p.101) これはかなり衝撃的だった。このくだりをもじって、「相手を傷つけることで自分もまた傷つく。そういう……人間であることの悲しさ」とレビューに書いたのだが、ぼくもわが身をふりかえると、〈不都合な真実〉がどうのと言える資格はないかも、という気がしてくる。'....he felt ashamed of his own vileness.' (p.123) 現代の小説を読んでいて、こういう内省の言葉に出くわすことはほんとうに少なくなった。どこかの国のノーベル賞作家にいたっては、政治的な行動しか眼中にないかのようだ。Pavese とは雲泥の差ですな。
 なお、イタリア映画には、左翼運動家の挫折をえがいた情感あふれる佳作がある。政治的な主義主張とは無関係という点で、"The Political Prisoner" と軌を一にしている。もし未見ならぜひどうぞ。
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