今年の全米図書賞候補作、Junot Diaz の "This Is How You Lose Her" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 男が女と出会って関係し、そして別れる。よくある話だが、これは
アメリカに住むドミニカ移民の男の失恋遍歴集。ユーモアをまじえた軽妙で活発、テンポのいい文体にまず惹きつけられる。主人公が読者に語りかけたり、逆に主人公を2人称で呼んだりすることで、失恋につきものの感傷が適度に抑制され、さりげなく描かれる別れのつらさに鋭いえぐりがある。ほかにも、若死にした兄との陽気なバトル、常夏の国から出てきた当初のカルチャーショック、移民生活や人種差別の現実など、いろいろな話題がいろいろな恋愛といりまじり、同じ主人公の連作短編集といったおもむきだ。読み進むうちに、貧しい移民の少年が才能を認められ大学を卒業、作家活動のかたわら大学で教鞭をとる、という大きな人生の流れが見えてくる。いわばサクセス・ストーリーのはずなのに、ふりかえればほろ苦い思い出ばかり。それを軽くあっさり、おもしろおかしく綴った佳作である。なじみの薄い口語や俗語にくわえて
スペイン語も頻出するが、文脈から推測できる場合も多いので鑑賞には困らない。