ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Carol Rifka Brunt の “Tell the Wolves I'm Home” (2)

 ううむ、ちょっと辛すぎたかな、☆☆☆★という点数。減点したわけは、とりわけ後半ほど、「筆の滑りぐあいがよすぎる、甘い感傷が鼻につく」と思ったからだ。雑感で、「何か意外な展開が待っているかもしれない。……(姉妹の確執が)物語に変化をつけているだけの副筋なのか、それともどこかで主筋と結びつくのか」と報告したあと、副筋が主筋と合流。しごく当たり前の展開で、突発的な大事件が起こるという点では意外性があるのだが、大きな流れとしては驚くほどではない。それだけにかえって、話が出来すぎてるなあ、ちょっと甘すぎるなあ、と重箱の隅をつつく採点となってしまった。
 ただ、文芸エンタメ路線というのは、だいたいこんなものである。わりと類型的な人物が「定番の嫉妬」など類型的な感情をいだき、「その葛藤を解きほぐす過程がミステリアスでおもしろい」とはいっても、基本的には愛の美しさを謳った「単純な物語」。そんなありきたりの話をいかに読ませる工夫をしているか、というのがこのジャンルの評価ポイントであって、ありきたりだから減点とはかぎらない。そこで「辛すぎたかな」と反省しているわけです。
 本書における「読ませる工夫」のひとつは、ネタを割らない程度に書くと、「エイズにかんする正しい知識がまだ一般には広まっていなかった時代の……病気への誤解」をうまく使っていることだ。それから、なんと言っても、"Tell the Wolves I'm Home" というタイトルの肖像画。これについても詳しく説明できないのが残念だが、とにかくこの絵が中心となって物語が作られている。つまり、「(画題の)意味が明らかになったとき、本書の根底をなす純愛の意味もまた明らかになるという展開が秀逸」なのだが、「純愛」そのものは……まあ、こんなものでしょうな。