ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jon Kalman Stefansson の “Heaven and Hell” (1)

 アイスランドの作家 Jon Kalman Stefansson の "Heaven and Hell" を読了。原作は2008年刊、英訳初版は2010年刊である。さっそくレビューを書いておこう。(表示はできませんでしたが、ペイパーバックも出ています)。

[☆☆☆★] 19世紀末、四月とはいえまだ冬のアイスランドの海。タラ漁解禁の日に若い漁師が不慮の死をとげ、その友人だった孤独な少年が人生に疑問をおぼえ、自殺を決意する。が、その小さな漁村では、同じく心に深い傷を負った人びとがひっそり暮らしていた……。いかにも「世界の北の果て」らしい、どこまでも寒く、暗く、静かな舞台が印象的。自然描写のなかにふと心理表現がいりまじり、時に散文詩を思わせる文体にいぶし銀のような魅力がある。雪山を望み、暗い海に面したフィヨルドの村にふさわしい人物がパブに集まり、それぞれの悲哀と絶望が複雑微妙にからみあい、にじみ出てくる。人生は生きるに値するものなのか、とは古典的で永遠の疑問だが、いまから百年以上も昔、最北端の酷寒の地に住む人間が発した問いだけに、とりあえず生きつづけるしかないという答えともども格別の重みがある。時代と舞台の設定で読ませる佳篇である。