ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Testament of Mary” 雑感

 カタツムリ君のペースで本を読んでいるうちに、いつのまにかベストテンの季節になってしまった。ニューヨーク・タイムズ紙、ガーディアン紙、タイム誌、パブリシャーズ・ウィークリー誌、英米アマゾンなどのリストをながめると、毎度ながら読み洩らしている作品が多いことにガックリ。とうていぜんぶは catch up できないので、とりあえず、PW誌推薦の Jess Water 作 "Beautiful Ruins" だけ注文しておいた。ジャケ買いです。
 ゆうべの晩酌がたたり、きょうは昼近くになって起床。さすがに仕事をする気にはなれず、先月読むはずだった Colm Toibin の "The Testament of Mary" に取りかかった。米アマゾンの Literature & Fiction 部門で11月の優秀作品に選ばれているのを見かけ、Toibin は好きな作家の一人なので興味がわいた。
 タイトルとカバーから想像したとおり、主人公は聖母マリア。冒頭はキリストの処刑から何年もたった時代の話で、それがそのまま続くのかと思ったら、やがて回想が始まり、キリストが死んだラザロを生きかえらせたり、キリストやマリア自身が密偵に行動を監視されたり、といったエピソードが紹介される。
 いわば聖書の番外編というおもむきだが、マリアが母親としての立場からキリストの身を案じ、また愛情をそそぐのにたいし、キリストのほうは宣教活動にいそしみ、人々から崇敬され、マリアにとっては子供ながら近寄りがたい遠い存在となっている。つまり「聖書の番外編」といっても、実際はホームドラマ
 ぼくはキリスト教関連の本をろくに読んだことがないので、このようなホームドラマの元ネタが何かはわからない。が、たぶん Toibin 自身の想像もかなり混じっているのではあるまいか。ふと裏表紙を見たら、"[An] audacious feat of imaginative empathy ... Toibin enters the mind and heart of the mother of Christ" というガーディアン紙の書評が載っていた。
 相変わらず Toibin らしい静かで繊細なタッチの名文なのだが、正直言って、まだイマイチ乗れない。ぼくはべつに信者でもなんでもないが、マリアがホームドラマの主人公として描かれることで、人間的にずいぶん小さくなっている点がどうも気にかかる。マリアも聖母である前に、ごくふつうの母親だったのだ、ということなんだろうけど……。さて、最後までこの調子なんでしょうか。