ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ismail Kadare の “The Ghost Rider” (1)

 諸般の事情で長らく読書もブログもサボっていたが、きょう改めて Ismail Kadare の "The Ghost Rider" に取り組み、なんとか読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] 中世アルバニアの小さな村で奇怪な事件が発生。遠国に嫁いでいた名家の娘を、なんと三年前に死んだはずの兄が母のもとに連れ帰ったというのだ。亡霊のしわざか世間をあざむく狂言か、はたまた、なにか深い秘密が隠されているのか。警察署長が捜査に乗りだすが、「兄」は行方不明、娘も母もやがて死亡、事件は混迷の度を深める。いかにも寓話らしい設定だが、当初はその意図が判然とせず、ミステリアスな雰囲気のうちに物語が進む。やがて〈死者の復活〉がキリスト教の根幹にかかわり、国家の安全基盤をゆるがす大問題へと発展するあたりから寓話の意味も鮮明に。これは刊行当時、東西対立のはざまにおかれ、ホッジャ体制のもとで鎖国状態にあった共産主義国アルバニアの政情を諷刺した作品なのだ。直接的な体制批判こそ少ないものの、鎖国をやめ、共産主義という無神論から脱却し、不信に満ちた社会を改革しようと訴える声は明瞭。作者が国家国民のために心血をそそいで執筆したものと思われる佳篇である。