ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alice Munro の “Dear Life” (1)

 Alice Munro の最新短編集 "Dear Life" を読了。ガーディアン紙、パブリシャーズ・ウィークリー誌、アマゾン・カナダでそれぞれ去年のベスト作品に選ばれたものである。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] 十の短編と四つの自伝的な心象スケッチを収めた作品集だが、心にしみるのは後者。両親や隣人などの思い出を綴った表題作をはじめ、とくに技巧もほどこさず、ただ簡潔かつ的確に、また愛情豊かに、人生で忘れえぬシーンを紙上に再現している。ひとのぬくもりを感じさせる小品群である。一方、短編のほうはストーリー性に富み、偶然の出来ごとをうまく積み重ねた構成がみごと。男と女がたまたま出会い、恋心なり親近感なり、なんらかの感情が流れ、やがてそれが不倫や失恋、別離、夫婦の危機へとつながっていく。よくある話だが、途中に意外なひねりがあったり、副筋とは思えぬ広がりがあったり、凡百のメロドラマとは一線を画している。愛情や善意の礼賛ではなく、ぴりっとワサビのきいた話が多いのもその証左。偶然とは、ひととひとを結びつけるものだが引き離しもする。その出会いと別れもじつにさまざま。フィクションにしろ自伝にしろ、人生とはおもしろいものだ、という当然の事実をあらためて実感させられる好短編集である。