ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2013年アレックス賞発表 (2013 Alex Awards)

 シアトル時間で28日、ヤング・アダルト向けの作品を対象とするアレックス賞が発表された。ぼくが読んでもいいなと思った3冊と、去年の全米図書賞に輝いた "The Round House " など既読の2冊のほかは、タイトルと作家名のみ掲載しておきます。

[☆☆☆★] 親子の絆、家族愛、そして通過儀礼をテーマにすえた文学的なコラージュ。ネヴァダ州の田舎町に住む母子家庭の少女が主人公。その幼いころからの家庭や学校での生活を中心に、母親の娘時代からの人生、祖母の人生などが少しずつ紹介される。日記風の記述はもちろん(中には黒塗りの箇所もある)、何かと問題を起こす母親と面接したソーシャル・ワーカーの報告書や、少女の身を案じる祖母の手紙、新聞記事など、断片的なスケッチの集成である。孤独な少女と数少ない友人とのふれあいや、母が娘を、娘が母を思うくだりに心を打たれる一方、ワサビのきいたユーモアに苦笑。傷ついた純真な少女が家族の愛を支えに大人へと成長する定番の物語だが、それをコラージュ化している点がミソで、点景を楽しむべき作品である。英語は口語表現が多く、ややむずかしい。(2月18日)[☆☆☆★] 序盤は最高。サンフランシスコに住む青年が夜勤の店員として働きだした24時間営業の小さな書店は、じつはふしぎな図書館だった。深夜、たまに訪れる客が本を返し、店の奥にあるべつの本を借りていく。その本は市販されていないものばかり。そこにはどんな意図が隠されているのか。客たちは、店主の老人はいったい何者なのか。このファンタジーを思わせる怪しい雰囲気には蠱惑的な吸引力がある。が、従来の幻想的な小説と大きく異なるのは、謎を解くのにコンピュータが駆使される点だろう。青年は、グーグル社に勤務する恋人をはじめ、親友やルームメイトたちの協力をえて情報をデータ化し、映像化し、ますます立ちふさがる秘密に迫ろうとする。本書はいわば、幻想とハイテクが融合した現代のフェアリーテイルなのである。軽妙な筆致でユーモアもあり、手に汗握る冒険も織りまぜられるなど、次第に謎が解けていく過程はかなりおもしろい。紙の文化とデジタル文化の競合と併存という問題が浮かびあがる点も買える。が、その謎の真相は……竜頭蛇尾とだけ述べておこう。英語としては、口語表現やコンピュータ用語もふくめて現代英語そのものである。(2月14日)[☆☆☆★★★] 開巻、エキセントリックな中年女同士のバトルに引きこまれ、「泥まみれ」のドタバタ喜劇に大笑い。この序盤の〈笑いのマジック〉には相当なパワーがある。メールのやりとりが中心の書簡体小説で、視点がテンポよく鮮やかに切り替えられ、活発でノリのいい会話が飛びだすうちにコミカルな事件が連続する。その中心人物が、何かと人騒がせなバーナデット。中盤、彼女の苦渋に満ちた人生が次第に明らかにされるとともに、前半のコメディーの舞台裏も見えてくる。心に秘めた深い傷、地域社会における孤立、多忙で無理解な夫との断絶。物語がシリアスなタッチを帯びたところで、コメディーもとんでもない方向へと走り出し、解釈の仕方によって正気と狂気が逆転するという恐ろしい事態になる。これをコミカルに描いている点が秀逸だ。この状況をとことん戯画化して、さらに拡大すれば大変な傑作が生まれたはずだが、最後はタイトルどおり、「バーナデット、どこへ行く」という名の家庭小説。ハートウォーミングで好感がもてるし、意外な冒険もあって楽しめる。もともと家庭の喜劇であるという意味では自然な流れだが、「とんでもないコメディー」が常識的な結末を迎えたのは尻すぼみの感があり惜しい。難度の高い口語表現も散見されるが、なにしろテンポのいい文体で読みやすい英語である。(4月30日)[☆☆☆★★★] [☆☆☆★★★] コアにあるのは少年の通過儀礼。だが、20世紀後半、ネイティヴ・アメリカンがまだ法律的に差別をしいられていた史実を踏まえたものだけに、通常の青春小説とは異なる重みがある。舞台はノースダコタ州の田舎町。居留地に住む少年ジョーの美しい母親が何者かにレイプされ、開巻からいきなり息づまるような緊張の連続だ。やがてジョーは友人たちと事件の解明に乗りだし、さながら少年探偵団のように活躍。傷ついた母をめぐる重苦しさと少年たちのドタバタぶりや、ジョーの少年らしい正義感と、巨乳の叔母に示す性的関心といったコントラストがじつに絶妙で読ませる。祖父が眠りながら物語る部族の伝説や、先住民の伝統的な生活風景、マジックリアリズムふうの逸話もいり混じり、重層的な作品に仕上がっている。家族愛や少年たちの友情、人間同士の信頼などをモチーフにしたエピソードが複雑にからみあい、やがて厳然たる差別の現実が露呈、ジョーは驚くべき通過儀礼の行動へとひた走る。この最大の山以後、恋愛がからんで定番の青春小説らしくなり、いくぶんボルテージが下がったのが惜しまれるものの、全篇を通じて緊密な美文で綴られた秀作である。[☆☆☆★] 点数は辛めだが、じつは通勤快読本。筆の滑りがよすぎる、甘い感傷が鼻につくなどと重箱の隅をつつくのはやめ、上質のメロドラマと割りきって楽しむべし。思春期の孤独で内気な少女ジューンが、昔は親密だったのに最近はなにかと意地わるな姉ともども、エイズで死期の迫った有名な画家の叔父に肖像画を描いてもらう。叔父と深く心が通じあっていたジューンは、叔父の死後、叔父と特別な関係にあった青年と出会い、当初は彼を忌み嫌うものの、しだいにその優しい人柄に惹かれていく。根底にあるのは純情で繊細な少女の恋、そして家族愛の物語だが、エイズにかんする正しい知識がまだ一般には広まっていなかった時代の話とあって、病気への誤解が単純な物語を複雑化している。そこへさらに定番の嫉妬がからまり、その葛藤を解きほぐす過程がミステリアスでおもしろい。題名は肖像画のタイトルでもあり、その意味が明らかになったとき、本書の根底をなす純愛の意味もまた明らかになるという展開が秀逸である。
“Caring is Creepy” by David Zimmerman
Juvenile in Justice” by Richard Ross
“My Friend Dahmer” by Derf Backderf
“One Shot at Forever” by Chris Ballard
“Pure” by Julianna Baggott