ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2012年コスタ賞発表 / Ayana Mathis の “The Twelve Ttibes of Hattie” (1)

 2012年のコスタ賞最優秀作品賞は、Hilary Mantel の "Bring up the Bodies" に決定。'So it's Hilary Mantel, again.' と、あちらの読者がコメントを寄せていた。ブッカー賞とあわせてめでたく二冠達成だが、カナダのブロガー Kevin など釈然としない思いだろう。
 ぼくの評価も☆☆☆★★だっただけに、去年、旧大英帝国には、ほかにもっといい作品がなかったのかね、と言いたくなる。でもまあ、文学にはいろいろな見方があるものだから、今回の決定に大いに納得している人もいることだろう。
 閑話休題。Ayana Mathis の "The Twelve Tribes of Hattie" を読了。Michiko Kakutani の去年の10 Favorite Books、英米アマゾンの今月の Best Books、Oprah's Book Club の推薦図書にそれぞれ選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] 最後のくだりを読んでいるうちに、「受苦」という言葉が自然にうかんできた。そう、この60年近くにおよぶファミリー・サーガは、同時に、主人公の黒人女、ハッティのまさしく受苦の物語にほかならない。ファミリー・サーガといえば大河小説が通例だが、本書の場合は連作短編集といっていいほど独立したエピソードがつづく。ジョージアの田舎町から大都会フィラデルフィアに出てきたハッティの苦難。彼女の息子や娘、孫娘たちの苦悩。その小さな流れを時代の流れとともに生みだし、ひとつにまとめているのがハッティの苦渋に満ちた人生である。貧困、人種差別、家族同士の確執、犠牲と忍耐。とりわけ、親子の絆にからんだ悲痛な物語に胸をえぐられる。昔の事件の背景が少しずつ説明され、はじめてその話を読んだときの感動に加え、さらに複雑な思いが増幅。どのエピソードにも情感がこもり、時に感傷的な場面もあるが、安易な妥協や解決はいっさいない。家族をもうけることの厳しさをあらためて思い知らされる、しかし根底には深い愛情が流れる受苦の物語である。