Laurent Binet の "HHhH" をボチボチ読んでいる。今年の全米批評家協会賞の候補作で、巻頭の紹介記事によると、ゴンクール賞新人賞の受賞作(2010年)とのこと。
例によって内容も確かめずに注文したが、表紙からナチス物だとすぐにわかった。 'HHhH' they say in the SS: Himmler Hirn heist Heydrich ― Himmler's brain is called Heydrich. (p.109) というのがタイトルの由来。1942年、プラハで起きたゲシュタポの最高司令官(親衛隊大将)ラインハルト・ハイドリヒの暗殺事件を扱った作品である。
これはまず叙述スタイルがおもしろい。歴史小説を書きあげていくプロセスを実況中継風に盛りこむことで、明らかにフィクションと思われる会話や心情、情景でもリアリティーが生まれている。小説と史実、フィクションと現実をめぐる考察から、問題の核心に迫ろうとする作者の意図が読み取れ、それゆえ、実際そんな場面があり、そういう言葉がかわされたのではないか、という気がしてくるのだ。
このような手法は、おなじ事件を背景にした Mark Slouka の "The Visible World" とは大く異なっている。あちらはストーリー重視型のロマンティックな作品だった。昔のレビューを再録しておこう。(点数はきょう決めました。甘いかな)。
- 作者: Mark Slouka
- 出版社/メーカー: Mariner Books
- 発売日: 2008/03/18
- メディア: ペーパーバック
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