ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Francesca Segal の “The Innocents” (2)

 周知のとおり、2012年のコスタ賞最優秀作品賞は Hilary Mantel の "Bring up the Bodies" に決定し、ブッカー賞とあわせてダブル受賞となった。たしかに快挙ではあるが、ヘソ曲がりのぼくなど、「去年、旧大英帝国には、ほかにもっといい作品がなかったのかね」と思ったものだ。
 それがこの "The Innocents" を読みたくなった動機でもある。コスタ賞の新人賞部門で栄冠に輝き、長編部門賞の "Bring up the Bodies" とならんで最優秀作品賞を争った候補作だからだ。
 で、読みくらべた結果だが、いくらアマノジャクのぼくでも、やっぱり選考委員諸氏の判断は正しかったと言わざるをえない。両書には歴然とした差がありますな。(点数評価では★一つの差ですが)。
 というのも、"The Innocents" の場合、「恋愛以外の要素もたっぷり盛りこまれ」ているのはいいのだが、そのため「主筋の展開を忘れそうになるほど饒舌」になり、「いささか退屈してしまう」のが最大の難点である。退屈な理由をひとことで言うと、それが意味のない饒舌としか思えないからだ。一方、"Bring up the Bodies" には、そういう無駄はなかったような気がする。(ただし、ぼくは世評ほどいい作品だとは思わない)。
 裏表紙には、Francesca Segal と Zadie Smith との類似性を指摘するレビューも紹介されている。たしかに先月読んだ Smith の "NW" は、"The Innocents " と同じく、ロンドン北西部に住む人びとの日常生活をすこぶる饒舌に綴った作品だった。が、あちらはその饒舌に意味があった。それが「混沌として雑然とした世界こそ人生なのだ」というテーマを反映していたからである。(ただし、"NW" もせいぜい佳作どまりでしょう)。
 けれども "The Innocents" の場合、なるほどユダヤ人のコミュニティーが「強い絆で結ばれた独特の社会」だということはわかるものの、要はそれだけの話である。"NW" におけるほど感動的な「人生の断片」に出くわすことはまずない。これでは「意味のない饒舌」としか言えないだろう。
 ところが、この饒舌がないと、「2人の女のあいだで男がゆれ動く」という「陳腐なメロドラマ」がますます陳腐になってしまったはずだ。痛し痒しですな。
 そのメロドラマそのものは、けっこうおもしろい。が、文学ミーハーのぼくとしては、もっともっと楽しませてくれ、と思ったものだ。現代文学には、『赤と黒』や『アンナ・カレーニナ』のような超弩級の恋愛小説はないのでしょうかね。