ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lauren Groff の “Arcadia” (2)

 点数は辛めにつけたが、これを Janet Maslin 女史が去年のお気に入りの一冊に選んだ理由はわからなくもない。女史にかぎらず、こういう詩的で情感のこもった作品に強い愛着を覚える人もたくさんいることだろう。
 じつはぼくも、とりわけ後半、ふっと溜息をつくことが多かった。ビットは少年時代の初恋の相手と再会して結婚。娘が生まれ、しばらく幸せに暮らしていたはずなのに、妻がなぜか家出してしまう。そのあと、何人か積極的に好意を示してくれる女性と出会うのだが、ビットは失踪した妻のことがどうしても忘れられない。
 ぼくが同じ立場だったら、ニコニコあっさり再婚してしまうところだが(そんな軽い男に良縁はありません)、ビットは貞節そのものだ。だからこそ、「彼の孤独と悲哀が心にしみる」のである。
 そんなビットがふたたび Arcadia House に住み、母親の介護をするようになる最終章はほんとうにすばらしい。あ、『ウォールデン』だな、と思ったくだりを引用しておこう。
Bit is in the dawn in the forest, breathing the scent of water, all fish and sweet leaf rot, when the sun grows through the treetops and touches him where he stands, camera forgotten. He is so still the doe doesn't see him and bends her elegant head to drink at the stream. .... Alone now, Bit can't catch his breath, and he laughs so hard he goes dizzy. Something breaks in him, and the breaking, at last, feels good. (p.263)
 こんな環境の中でビットは母親の最期を看取り、すてきな女性と出会う。「アルカディアを失った人間が、心のアルカディアを発見する物語」とレビューに書いたが、これを読むと、しばし「心のアルカディア」にいる気分を味わえることだろう。ぼくも田舎に帰りたくなりました。