1999年のブッカー賞最終候補作、Colm Toibin の "The Blackwater Lightship" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆☆] なにもかも、決まりすぎるほど決まっている。だが泣けた。これは、家族の死に直面したときの人間の心理と行動を過不足なく描いた、ひとつの典型的な小説である。舞台
からしてもう完璧だ。
アイルランドの荒涼とした海辺の家。夜間、
灯台の明かりが射しこんでくる部屋。そこで姉が幼い少女時代からの人生をふりかえり、自分の心を静かに見つめながら、
エイズにかかった弟の看病をする。同居しているのは、感情的にわだ
かまりのある祖母。その祖母以上に確執があり、長らく疎遠の母親とも久しぶりに顔をあわせる。ざっとそんな状況でどんな言葉が飛びかい、この姉がなにを思い、弟がどんな闘病生活を送るかは想像にかたくない。定石どおりの展開だが、ト
ビーンの筆致はあくまでも緊密かつ抑制的で、おなじみの愛憎が渦巻くものの、安手の感傷や安易な妥協はいっさいない。それどころか、深く熱い感情がぐっと凝縮された光景は永遠の一瞬ともいえ、思わず溜息が出るほどだ。静かにうねる寒い海。
灯台の明かり。ふと聞こえてくる母親の歌声。さりげなく言葉をかわす親子。そのひとつひとつから、言い知れぬ悲しみが伝わってくる。まさしく
アイルランド版ハードボイルド小説である。