ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2012年全米批評家協会賞発表 (2012 National Book Critics Circle Awards)

 ニューヨーク時間で2月28日、全米批評家協会賞が発表され、フィクション部門では、Ben Fountain の "Billy Lynn's Long Halftime Walk" が栄冠に輝いた。ぼく自身は Adam Johnson の "The Orphan Master's Son" [☆☆☆☆] が本命と思っていたが、"Billly Lynn's ...." も力作なので納得できる結果だ。以下、レビューを再録しておこう。

[☆☆☆☆] 膠着状態におちいったイラク戦争を背景に、戦争の大義の虚妄と、大義を信じたがる国民の軽佻浮薄、偽善と大衆ヒステリーを痛烈に諷刺した反戦小説。彼の地でめざましい戦果をあげた青年兵ビリーたちブラボー分隊の面々が一時帰国、ブッシュ政権選挙対策に駆りだされ、全米の主要都市を凱旋ツアー。その終点ダラスでおこなわれるスーパーボウルのハーフタイム・ショーに、なんとビヨンセたちともども出演。分隊の活躍を女優が主役で映画化する話ももちこまれるなど、終始一貫、ナンセンスなドタバタ劇の連続だが、ビリーたちを賞賛する人びとの声や、反テロ戦争の正義を訴える試合前のアジ演説などと平行してコミカルなエピソードが盛りこまれるうち、上記の諷刺の意図が明らかになる。圧巻はやはりハーフタイム・ショーだ。ド派手な光と音の饗宴は本書における茶番の総決算であると同時に、イラク戦争アメリカ国民の大衆ヒステリーを象徴する壮大な狂騒劇となっている。口語や俗語を駆使した、すさまじいパワー全開の文体に圧倒され、ビリーとチアリーダーのお熱いシーンもあっておおいに楽しめる。思わずほろっとさせられる結末もいい。が、いささか気になる点もある。諷刺とは、鋭い批判精神と深い真実の洞察から成りたつものだが、本書の場合、諷刺の原点は、戦争が「生と死の究極的な問題」であり、また「愚劣な死の大量生産」であるとの認識にある。たしかに一面の真理だが、たとえば、悪の座視は悪であるとか、正義と正義の衝突が戦争であるといった側面は描かれない。〈正義病〉にかかったアメリカ人の幼児性も諷刺の対象となっているが、幼児の軽薄を嗤うためには大人の知恵を有していなければならぬ。が、大人の知恵とは、ものごとのあらゆる面をとらえる英知ではないのか。ある一面を戯画化して笑いのめすのが諷刺である点を考慮しても、本書の諷刺は一面的に過ぎる。戦争を真に諷するためには、人間がついに天使たりえない不完全な存在であるという洞察が必要である。そうした悲劇的人間観が欠けているがゆえに、本書に心から感動することはできない。