ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jess Walter の “Beautiful Ruins” (1)

 パブリシャーズ・ウィークリー誌が選んだ昨年の最優秀作品のひとつ、Jess Walter の "Beautiful Ruins" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

Beautiful Ruins: A Novel (P.S.)

Beautiful Ruins: A Novel (P.S.)

[☆☆☆☆] 断崖絶壁にかこまれたイタリアの小さな漁村でホテルを経営している青年が、訪れた「死にかけの」アメリカの女優にひと目ぼれする。この通俗的な冒頭から、かくも豊穣、かくも重層的な大河ドラマがはじまるとは思いもしなかった。ほぼ半世紀にわたり過去と現在が交差。そのたびに舞台もローマやフィレンツェ、ハリウッド、シアトルなどと変化し、作中人物が書いた小説や、映画のシナリオ、芝居の台本のかたちで劇中劇も混じるなか、さまざまな親子や夫婦、恋人たちの人生が複雑に織りなされていく。映画『クレオパトラ』制作中のリズとバートンの〈世紀の恋〉もそのひとつというのが驚きだ。ユーモラスな会話やコミカルなドタバタ劇もあって笑えるが、ぎりぎりの選択を迫られ、挫折を経験し、不幸に見舞われ、深く傷ついた人間たちの悲痛な叫びも聞こえてくる。その悲喜こもごも、明暗の対照がじつにすばらしい。劇的な展開と、しんみりとした場面の組み合わせも鮮やかだ。ともあれ本書を読むと、泣いて笑い、笑って泣く――それが人生なのだ、と今さらのように思わざるをえない。そして最後、後悔のない人生はないが、長生きすればいいこともある、というメッセージの読みとれる結末に救われる。それが安易な結論ではない点がなおさらいい。英語は口語俗語が頻出し、語彙的にむずかしめだが難解というほではない。