ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2013年女性小説賞ロングリスト (2013 Women's Prize for Fiction Longlist)

 つい最近まで知らなかったのだが、今年からオレンジ賞が Women's Prize for Fiction (女性小説賞)と改称。本日ロングリストが発表された。例によって候補作が多すぎますな。趣旨はさておき、話題作りの商策がミエミエのような気もする。
 以下、既読のものはレビューを再録しておこう。未読だが、アマゾンUKの今月のベスト作品でもある Kate Atkinson の新作は、新刊ニュースを見たときから読みたかった。2008年に "The Bastard of Istanbul" がロングリストに選ばれた Elif Shafak の新作にも興味がある。Maria Semple の "Where'd You Go, Bernadette" は今年のアレックス賞受賞作でもあり、Francesca Segal の "The Innocents" はコスタ賞最優秀新人賞の受賞作。Zadie Smith の "NW" は全米批評家協会賞の最終候補作。Hilary Mantel の…… 'Oh, Mantel again!'

A Trick I Learned from Dead Men

A Trick I Learned from Dead Men

  • 作者:Aldridge, Kitty
  • 発売日: 2012/07/05
  • メディア: ハードカバー
Alif the Unseen

Alif the Unseen

Bring up the Bodies (The Wolf Hall Trilogy)

Bring up the Bodies (The Wolf Hall Trilogy)

  • 作者:Mantel, Hilary
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★] 今回のヤマは、ヘンリー8世の新王妃となったアン・ブリーンが男子の世継ぎを産めず、処刑されるというおなじみの大事件。前作と同じく宮内長官トマス・クロムウェルの立場から描いたもので、前王妃キャサリンの他界、アンの流産、ヘンリーと女官ジェイン・シーモアの密通と、なんのケレンもなく史実どおりに進む。間然とするところのない構成で緻密な描写も健在だが、前作とちがって裏話、楽屋話の楽しさが影をひそめたのは残念。途中の山場も少ない。クロムウェルは相変わらず冷静な観察力と交渉術にたけ、カネを武器に各要人のあいだを自在に動きまわり、身勝手な国王の願望実現のために尽力する。が、そのしたたかな現実主義のおもしろさは二番煎じの感を否めず、また、トマス・モアの理想主義という対立軸をうしなったぶん、作品全体に深みが欠ける結果ともなっている。とはいえ、クロムウェルがアンの「愛人たち」を尋問するあたりから大いに盛り上がり、アンの処刑場面はもちろんリアルで凄惨をきわめる。クロムウェルの庇護者トマス・ウールジを失脚に導いた張本人たちへの復讐劇となっているのが新解釈かもしれない。クロムウェルの最期を予感させるくだりもあるが、国王に翻弄される現実主義者のはかなさは次作のお楽しみ。本書は結局、3部作のつなぎの役割しか果たしていないのでは。英語は時代をよく反映した古風な表現が目だつが、難易度はさほどでもない。
Flight Behavior

Flight Behavior

bingokid.hatenablog.com
Gone Girl: A Novel

Gone Girl: A Novel

  • 作者:Flynn, Gillian
  • 発売日: 2012/11/08
  • メディア: ペーパーバック
Honour

Honour

  • 作者:Shafak, Elif
  • 発売日: 2013/01/31
  • メディア: ペーパーバック
How Should a Person Be?

How Should a Person Be?

  • 作者:Heti, Sheila
  • 発売日: 2013/01/24
  • メディア: ペーパーバック
Ignorance

Ignorance

Lamb

Lamb

  • 作者:Nadzam, Bonnie
  • 発売日: 2012/11/01
  • メディア: ペーパーバック
Life After Life: A Novel

Life After Life: A Novel

  • 作者:Atkinson, Kate
  • 発売日: 2013/04/02
  • メディア: ハードカバー
bingokid.hatenablog.com
Mateship With Birds

Mateship With Birds

  • 作者:Tiffany, Carrie
  • 発売日: 2012/06/21
  • メディア: ハードカバー
May We be Forgiven

May We be Forgiven

  • 作者:Homes, A. M.
  • 発売日: 2012/10/01
  • メディア: ペーパーバック
bingokid.hatenablog.com
NW

NW

  • 作者:Smith, Zadie
  • 発売日: 2012/09/06
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★] いまや多民族都市のロンドン北西部。そこの住人が交代で主役をつとめる輪舞形式の長編だが、実質的には長編というより、生活風景の短いスケッチ、人生の断片をまとめたもの。ジャマイカ系の女弁護士の出番がいちばん多いが、完全な主人公とは言えず、一貫したストーリーもほとんどない。テーマも当初つかみにくいが、筋書きも条理もあるかなきか、混沌として雑然とした世界こそ人生なのだとすれば、ここにえがかれている夫婦や親子、恋人、友人などの人間関係の断片、生活風景はまさに人生そのものである。どの人物もそれぞれ悩み、苦しみ、悲しみ、笑い、愛し、憎みながら生きている。その悲喜こもごも、愛憎からは、自分は何者なのか、人生に意味はあるのか、といった実存の問いも聞こえてくる。恋愛感情のもつれと不条理な殺人を扱った第2部に比較的まとまりがあり、女弁護士の半生を綴った第3部が「人生の断片」をもっとも鮮明に映しだしている。中には胸をえぐられる断片もあるが、組み立てる前のジグソーパズルのピースといったものも多く、読者によって好みが分かれるだろう。英語は口語、俗語、破格のオンパレードでむずかしめだが、すこぶる饒舌な文体に迫力があり引きこまれる。
[asin:140883149X:detail]
The Innocents

The Innocents

[☆☆☆★] 2人の女のあいだで男がゆれ動く恋物語。とくれば陳腐なメロドラマだが、恋愛以外の要素もたっぷり盛りこまれた文芸エンタテインメントに仕上がっている。舞台はロンドン北西部、ユダヤ人のコミュニティー。男と少年時代から恋仲だったのは、清純無垢、善良で誠実、ユダヤの伝統をよく受け継いだ理想の相手。そんな彼女と婚約した矢先、彼女の美人のいとこがアメリカで不祥事を起こして帰国する。自由奔放で年上の妻帯者とも関係、コミュニティーの異端的な存在だが、男は彼女の孤独で傷つきやすい心に気づき、次第にその純粋さに惹かれていく。ユダヤの宗教行事を中心に、家族の日常生活や友人知人との交流などがことこまかく描かれ、主筋の展開を忘れそうになるほど饒舌。強い絆で結ばれた独特の社会が浮き彫りにされる。そこから社会全体の保守的な価値観と、若者の自由な恋愛衝動との相克という副次的なテーマも生まれ、単純な恋愛ドラマに厚みがくわわっている。反面、主筋に戻るまで長すぎて、いささか退屈してしまうのが残念。難語も散見されるが英語は総じて標準的で読みやすい。[☆☆☆★★] 第一次大戦の記憶がまだ生々しい1926年。オーストラリア南西部のはるか沖、インド洋と南極海の境目に位置するヤヌス島。二度も流産し、今また死産したばかりの灯台守の妻の耳に、元気のいい赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。海岸にボートが打ち上げられ、そこになんと赤ん坊が…。文字どおり息をのむほどの絶景にふさわしい魅力的な物語の幕開けである。以後、やや平板な描写とステロタイプに近い人物造形が気になるものの、やがて親子の愛情の強さ、美しさを直裁に謳いあげた圧倒的な物語の迫力にのみこまれてしまう。ヤヌスという島名どおり、おもな人物が二つの選択肢に引き裂かれて苦しむところがミソ。ごく標準的な英語なので通勤快読本ではあるが、涙なしには読めないくだりもあるのでご用心。
The Marlowe Papers

The Marlowe Papers

  • 作者:Barber, Ros
  • 発売日: 2013/02/14
  • メディア: ペーパーバック
The People of Forever are not Afraid

The People of Forever are not Afraid

  • 作者:Boianjiu, Shani
  • 発売日: 2013/02/07
  • メディア: ハードカバー
The Red Book

The Red Book

Where'd You Go, Bernadette: A Novel

Where'd You Go, Bernadette: A Novel

  • 作者:Semple, Maria
  • 発売日: 2013/04/02
  • メディア: ペーパーバック
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