ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Bel Canto” 雑感 (2)

 いま英米アマゾンで Ann Patchett の作品リストを検索すると、どちらもトップにあるのは最新作の "State of Wonder" だが、2番目はこの "Bel Canto"。間違いなく彼女の代表作だろう。
 冒頭はとてもすばらしい。'When the lights went off the accompanist kissed her. Maybe he had been turning towards her just before it was completely dark, maybe he was lifting his hands. There must have been some movement, a gesture, because every person in the living room would later remember a kiss. They did not see a kiss, that would have been impossible. The darkness that came on them was startling and complete. (p.1)
 これを読んだとたん、いったい何が起きたのだろう、どんな物語が始まるのだろうと思う。どの作家も書き出しの一節には工夫を凝らすものだが、上のくだりは、まるでマジックショーの開幕でも見るようだ。
 が、そのあと、ぼくはだんだん眠くなってしまった。今週は月曜日に夜更かしして、すっかり生活のリズムが狂ってしまったせいもあるが、当初は少なくとも "State of Wonder" ほどのクイクイ度(クイクイ読める度合い)ではない。
 いちばん引っかかったのは、作者の文体が(平明で読みやすい名文ではあるのだが)素直すぎて、このオフビートな人質事件にはどうもそぐわない点である。これは、けっこうハマってしまったいまでも感じている。もっと jazzy で饒舌な文体、たとえば、最新の全米批評家協会賞受賞作、"Billy Lynn's Long Halftime Walk" における Ben Fountain のような文体のほうが、この「オフビートな」世界の再現にはずっとふさわしいのではないだろうか。
 それから、テロリストの人質になった人間の心理が意外に型どおり。カトリックの司教や医師などが立場に反してエゴをむきだしにする、といったあたりがとくに眠い。
 ……と思っていたら中盤、目のさめるような事件が待っていた。人質のひとりがショパンの曲を弾きはじめるところだ。ついでタイトルどおり、美しい歌声が発せられるくだり。……このあたり、ネタを割ってもいいのかな。ま、みなさん、もうお読みの本だと思うので、ぼくの言いたいことはおわかりでしょう。きょうも中途半端だが、先を読みたいのでこれにて失礼。