ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joyce Carol Oates の “A Garden of Earthly Delights” (1)

 Joyce Carol Oates の第2作、"A Garden of Earthly Delights" (1967) を読了。1968年の全米図書賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆★] 人間の魂はマグマのようなものかもしれない。ふだんは地下深くで蠢動しているため、その動きは目に見えない。が、やがて不穏な兆候があり、ある日突然、噴出爆発する。本書でなんどか起きる「魂の爆発」には、陳腐な形容だが息をのむばかりだ。怒り、暴力、情欲、実存の叫び。ただ、事件そのものは意外に単純で、乱闘やメロドラマ、家庭の悲劇といったところ。また途中の風景としても平凡な日常生活がつづく。しかしそこに登場する人物はそれぞれ身分や階層、立場が微妙に、あるいは決定的に異なり、ささいな言動にも感情的な対立が読みとれ、どの場面もいわば「日常のスリル、日常のサスペンス」に充ち満ちている。その軋轢が明らかにされるとともに緊張が少しずつ高まり、やがて一気に爆発。最初の噴火がかなり早い段階で起こるため、あとはどの要素がどうからみ、どんな大事件へとつながるのか、固唾をのんで見守るだけ。実際にはなにもなくてもサスペンスがつのる「ジョーズ効果」さえある。彼らの対立は人生観や世界観の相違から生じるものではなく、その意味での深みはない。が、その代わり、平凡な毎日を送る者同士の激突という点で、そこには人間の生々しい現実が描かれている。主役は当初、貧しい白人の農場労働者。その三世代にわたる家族が第二次大戦をはさむ20世紀中葉、社会の底辺からしだいに這いあがっていくうち数々の事件に遭遇する。彼らの「生々しい現実」は、そのままアメリカの生活史ともなっているのである。