ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Maria Semple の “Where'd You Go, Bernadette” (1)

 オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作、Maria Semple の "Where'd You Go, Bernadette" を読了。これは今年のアレックス賞受賞作でもあり、昨年のタイム誌の年間ベスト10小説や、Janet Maslin の10 Favorite Books にも選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書は2019年、リチャード・リンクレイター監督により映画化されました)。

[☆☆☆★★★] 開巻、エキセントリックな中年女同士のバトルに引きこまれ、「泥まみれ」のドタバタ喜劇に大笑い。この序盤の〈笑いのマジック〉には相当なパワーがある。メールのやりとりが中心の書簡体小説で、視点がテンポよく鮮やかに切り替えられ、活発でノリのいい会話が飛びだすうちにコミカルな事件が連続。その中心人物が、なにかと人騒がせなバーナデットだ。中盤、彼女の苦渋に満ちた人生がしだいに明らかにされるとともに、前半のコメディの舞台裏も見えてくる。心に秘めた深い傷、地域社会における孤立、多忙で無理解な夫との断絶。物語がシリアスなタッチを帯びたところで、コメディもとんでもない方向へと走りだし、解釈のしかたによって正気と狂気が逆転するという恐ろしい事態に。これをコミカルに描いている点がすばらしい。この状況をとことん戯画化して、さらに拡大すれば大傑作が生まれたはずだが、最後はタイトルどおり、「バーナデット、どこへいく」という家庭小説。ハートウォーミングで好感のもてる佳篇だが、「とんでもないコメディ」が常識的な結末を迎えたのは尻すぼみで惜しい。