ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Maria Semple の “Where'd You Go, Bernadette” (1)

 オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作、Maria Semple の "Where'd You Go, Bernadette" を読了。これは今年のアレックス賞受賞作でもあり、昨年のタイム誌の年間ベスト10小説や、Janet Maslin の10 Favorite Books にも選ばれている。さっそくレビューを書いておこう。

Where'd You Go, Bernadette: A Novel

Where'd You Go, Bernadette: A Novel

[☆☆☆★★★] 開巻、エキセントリックな中年女同士のバトルに引きこまれ、「泥まみれ」のドタバタ喜劇に大笑い。この序盤の〈笑いのマジック〉には相当なパワーがある。メールのやりとりが中心の書簡体小説で、視点がテンポよく鮮やかに切り替えられ、活発でノリのいい会話が飛びだすうちにコミカルな事件が連続する。その中心人物が、何かと人騒がせなバーナデット。中盤、彼女の苦渋に満ちた人生が次第に明らかにされるとともに、前半のコメディーの舞台裏も見えてくる。心に秘めた深い傷、地域社会における孤立、多忙で無理解な夫との断絶。物語がシリアスなタッチを帯びたところで、コメディーもとんでもない方向へと走り出し、解釈の仕方によって正気と狂気が逆転するという恐ろしい事態になる。これをコミカルに描いている点が秀逸だ。この状況をとことん戯画化して、さらに拡大すれば大変な傑作が生まれたはずだが、最後はタイトルどおり、「バーナデット、どこへ行く」という名の家庭小説。ハートウォーミングで好感がもてるし、意外な冒険もあって楽しめる。もともと家庭の喜劇であるという意味では自然な流れだが、「とんでもないコメディー」が常識的な結末を迎えたのは尻すぼみの感があり惜しい。難度の高い口語表現も散見されるが、なにしろテンポのいい文体で読みやすい英語である。