ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Khaled Hosseini の “And the Mountains Echoed” (1)

 当初の予定より大幅に遅れてしまったが、ゆうべ、Khaled Hosseini の新作 "And the Mountains Echoed" をなんとか読了。さっそくレビューを書いておこう。

And the Mountains Echoed

And the Mountains Echoed

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[☆☆☆★★★] 20世紀中葉にはじまり、あしかけ60年にわたるアフガニスタン人一家の歴史を綴ったファミリー・サーガ。といっても壮大な大河小説ではなく、主人公が順次交代する輪舞形式の長編で、実質的には連作短編集に近い。中心にあるのは家族の絆で、これに友情や恋愛、禁断の愛、少年の通過儀礼、介護の問題なども混じる。舞台もアフガンの小村やカブールのほか、パリ、カリフォルニアのサンノゼギリシャのチノス島などに分散。戦乱の歴史や複雑な政治情勢も多少紹介されるものの、あくまで背景にとどまり、とりわけ時代がくだるにつれ、洋の東西を問わず、現代人の営むごくふつうの日常生活が描かれる。政治体制のいかんにかかわらず、人びとは心に深い傷を負い、家族の結びつきを確認しながら生きつづける。別離の悲しさ、愛情の深さが結晶化された場面に胸をえぐられるが、反面、常識的な内容で意外性は少ない。アフガニスタン人もまた西欧人と同じくふつうの人間なのだ、というメッセージが込められているのかもしれない。ファミリー・サーガからすれば傍流にあたるチノス島篇で、ある少年が顔に大けがをした少女と出会い、めぐりめぐって母の愛を思い知る。ピンホール・カメラの扱いが秀逸で、ホッセイニの小説家としての成熟を物語るエピソードである。