ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Trevor の “The Story of Lucy Gault” (1)

 2002年のブッカー賞最終候補作、William Trevor の "The Story of Lucy Gault" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆] 1921年アイルランドの海を望む屋敷で暮らす八歳の少女ルーシー。彼女は偶然のいたずらとしかいいようのない出来ごとがきっかけで突然、両親と離別。以後、その運命をいかに受けいれ、どんな人生を歩んだのかという流れだ。発端の事件はアイルランドの国内情勢とかかわりがあり、やがて第二次大戦も勃発するが、どちらもルーシーの物語としては、たんなる時代背景にすぎない。なんであれ私生活の偶発事が彼女や両親の生きかたを左右し運命的なものとなる。ゆえにいかにも「小さな説」らしい地味な小説だ。その説とは、試練によって愛が深まり、災いをもたらした相手を赦すことから喜びが生まれる、というもので常識的。中盤、ルーシーが青年と恋に落ちるくだりに代表されるように、いささか唐突な展開が目だち、人物のからみも図式的で簡潔にすぎ、性格や心理の書きこみが不足している。ルーシーにしても、たとえば『情事の終り』におけるサラのような倫理的葛藤がない。これまた「小さな説」たるゆえんである。