ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Donal Ryan の “The Spinning Heart” (1)

 アイルランドの新人作家、Donal Ryan の "The Spinning Heart" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The Spinning Heart

The Spinning Heart

[☆☆☆★] アイルランドの小さな村を舞台とする、実質的にはショートショート集といってもいい輪舞形式の長編。短い生活スケッチ風の物語の中で、さまざまな人物の独白が連続するうちに、第1話に登場する建築業者ボビーの人生が浮かびあがる。テーマは大ざっぱにいえば生と死、そして愛。親子や兄弟など肉親の死がたびたび話題となり、見かけとは裏腹に、激しい憎しみや恨みもふくめた各人の心中に渦巻く感情が赤裸々に綴られる。この表面と深層心理の落差、および愛憎なかばする心の動きを描くには、視点が目まぐるしく変化する輪舞形式は最適の方法のひとつかもしれない。「回転する心」とはまさに言い得て妙のタイトルである。人は生きていくうちに、何度かつらく悲しい出来事に出会うが、それも生きていればこその話だ。同様に、人は人を愛するうちに憎しみ、それがまた愛する意味にもなる。そんな当たり前のことを思い出すシーンに胸をえぐられる。ただし、後半に起きる子供の誘拐事件は蛇足。逆にこれがないと単調になるものの、結果的にいわば「心が回転しすぎてしまった」のが惜しい。英語は俗語や方言などブロークンな口語表現が続出し、現代の作品としてはむずかしめである。