アイルランドの新人作家、Donal Ryan の "The Spinning Heart" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★] アイルランドの小さな村を舞台とする、実質的にはショートショート集といってもいい輪舞形式の長編。短い生活スケッチふうの物語のなかで、さまざまな人物の独白が連続するうち、第一話に登場した建築業者ボビーの人生が浮かびあがる。テーマは大ざっぱにいえば生と死、そして愛。親子や兄弟など肉親の死がたびたび話題となり、家族愛はもちろん、見かけとは裏腹に、彼らの心中に渦まく激しい憎しみや恨みなども赤裸々に綴られる。この表面と深層心理の落差、および愛憎なかばする心の動きを描くには、なるほど視点が目まぐるしく変化する輪舞形式は最適の方法のひとつかもしれない。「回転する心」とはいい得て妙のタイトルである。ひとは生きていると、なんどかつらく悲しい目にあうが、それが生の意味を実感する機会ともなる。同様に、愛するひとを憎むようになったとき、それはまた愛の証しともいえる。そんな「心の回転」に思いをはせ、胸をえぐられるシーンも数多い。ただし、後半に起きる子供の誘拐事件は蛇足。逆にこれがないと単調になるものの、結果的に、いわば「心が回転しすぎてしまった」のが惜しい。