ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Donal Ryan の “The Spinning Heart” (2)

 きょうはまず、本書の前に読んだ J. M. Coetzee の "The Childhood of Jesus" の補足から。
 その後、カトリック信者でキリスト教に造詣の深い知人に問い合わせたところ、同書のタイトルからして、信者なら誰でもみんな、ユダヤ教の律法が支配していた旧約の世界を思い浮かべるはずだという。説明を聞いているうちに、食べ物の禁忌や四則計算のルールにしても、その宗教的背景からとらえるべきなのでは、という気がしてきた。信者の目で細部を点検すれば、きっと何か新しい発見があるものと思う。
 "The Spinning Heart" に話をもどそう。ぼくの読んだ Doubleday Ireland 社のハードカバー版は今年6月刊行だが、調べてみると昨年10月11日、つまりブッカー賞発表の6日前に初版が出ていることがわかった。それゆえ、今年の同賞にノミネートされる資格があるということらしい。その eligible リストでは相変わらず、第3位となっている、
 本書にはじつに多くの人物が登場するが、いちばん緊張関係にあるのは、雑感とレビューで紹介した建築業者 Bobby と、その父 Frank だろう。2人はある narrator (以下の「私」) の母親の葬儀でぱったり顔を合わせる。
Bobby was facing me, coming in the gate. (中略) And Frank was standing still, looking across, and it was for all the world as though Bobby sensed him there and he froze. And he couldn't have known he was going to be there; they'd arrived at our gate from opposite directions. I saw with my own eyes the colour draining from that boy's cheeks. His face never changed, but I swear a sadness you could nearly touch came down over it, and he turned slowly. There was nothing said for long seconds, and Michael [my husband] and myself stood rooted to the spot. And then Bobby Mahon said: Well Dad.

Just that. Well Dad. And his father just stood looking at him and his eyes were an ordinary blue like any man's but still and all, as dark as night.(後略) (pp.74-75)
 両者の関係を具体的に説明するわけにはいかないが、この場のぴんと張りつめたような空気、緊張感だけはしっかり伝わってくるはずだ。本書は、全編を通じてその関係が次第に明らかになる物語ともいえる。上のくだりは、「人は人を愛するうちに憎しみ、それがまた愛する意味にもなる。そんな当たり前のことを思い出すシーン」のひとつである。