ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Chimamanda Ngozi Adichie の “Americanah” (1)

 諸般の事情で予定よりずいぶん遅れてしまったが、Chimamanda Ngozi Adichie の新作 "Americanah" をなんとか読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] なるほど、この手があったか、と感心した。アメリカにおける人種差別という文学的には古びたテーマを、みごとに現代的に処理しているからだ。オバマが黒人初のアメリカ大統領となった当時、ナイジェリアから渡米した若い女イフェメルがブログを開設し、日常生活で体験した差別や差別意識の現実をユーモアたっぷりに報告。そのブログ記事と前後して、もっぱら仕事や恋愛における彼女の悪戦苦闘ぶりも客観的に描かれる。こうした二重の叙述形式が「この手」なのだ。このいわば複眼によるイフェメルの観察の結果、単眼の場合以上に差別の実態がまざまざと浮かびあがっている。がしかし、本書のテーマは差別にとどまらない。男と別れブログも閉鎖、長い渡米生活をおえて帰国を決意したイフェメルは娘時代からの人生を回想。それがおわるとこんどは現在進行形の物語がはじまる。妥協を拒み、自分の意見をはっきり述べる女性がどんな試練に出会い、どのように成長していったか。その大きな流れのなかで差別の問題もとらえるべきだ。存在感あふれる各人物、微妙な心理、複雑な人間関係、情感のこもった一瞬の光景など、どの描写も的確ですばらしい。それゆえ終盤、意外に平凡なメロドラマとなっても気にならない。ナイジェリア版『女の一生』、ただし、まだまだつづく人生物語である。