ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Colum McCann の “TransAtlantic” (2)

 ぼくのアンテナに掲載している The Mookse and the Grimes Forum に、2013 Longlist:Dynamic Ranking というコーナーがある。いま見ると、どれもまだ中間報告だが、5人の読者がブッカー賞ロングリストのランキングを発表している。さっそくマネしてみよう。
 1. "Harvest"
 2. "The Spinning Heart"
 3. "TransAtlantic"
 4. "The Testament of Mary"
 べつに "Harvest" が抜群にいいというわけではない。むしろ、たまたま読んだ4冊から判断するかぎり、今年も低調なのかなという気がする。こだわるようだが、"Americanah" の落選がいまだに信じられない。
 むろん、きのうのレビューにも書いたように、この "TransAtlantic" にも美点はある。ひとことで言えば「静かな心象風景」。実際には、プロローグにも出てくるアイルランドの lough の景色だろうか。
 McCann を読むのはこれが初めて、という人はけっこう高く評価するかもしれない。が、ぼくは3冊目で、とりわけ、本書とおなじ輪舞形式の長編 "Let the Great World Spin" がどうしても頭にちらついてしまった。あのツインタワーの綱渡りに匹敵する強烈なシーンがこちらにはない。そのぶん損をしていることは明らかだ。
 そういえば、上の "The Spinning Heart" もやはり輪舞形式だったが、どちらも出来は似たり寄ったりですな。実験的な作風の同書より、情感あふれる "TransAtlantic" のほうに軍配を上げる人がいてもべつにフシギではない。
 両書に言えることだが、輪舞形式というのはテーマによっては効果的な反面、あるひとつのテーマをとことん掘り下げていくには不向きのような気がする。本書の場合、人生の真実を知って目からウロコが落ちるような思いをすることはまずない。つまり、「常識的な内容に終始している点がもの足りない」。これは現代文学の通弊かもしれませんけどね。