ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alice Munro の “Dance of the Happy Shades” (2)

 このところ連日超多忙で、本書の落ち穂拾いもままならなかった。
 きょうはその前にまず、今年のブッカー賞について。受賞作の "The Luminaries" は未読だし、今後もすぐには読む気がしないが、落選した5つの候補作の出来ばえから判断して順当な結果かもしれない。
 落選作の中では "A Tale for the Time Being" [☆☆☆★★★] がいちばんかと思ったが、それでもせいぜい佳作どまり。たぶん世評はいいはずだし、ぼくもレビューに書いたとおり、主人公 Nao の物語については感動ものだと認める。が終盤、多元宇宙の話が出てきたところでガックリきた。宇宙の多元性なんぞより、正義の多元性・相対性について論究すべき箇所がそれまで多々あるのに、作者はセンチメンタリズムにおちいり、戦争という重大な問題を扱っているわりには単純で図式的な人間観・歴史観がかいま見える。話を広げすぎた結果、かえって底が浅くなってしまった。その点、おなじ日系作家の作品では、Julie Otsuka の "The Buddha in the Attic" [☆☆☆★★★] のほうが、個人に焦点を絞っているだけに安心して読める。点数の問題ではない。
 さてその後、ご存じのとおり、こんどは全米図書賞の最終候補作が発表された。いつもとちがって、作者とタイトルのみコピーしておこう。(1) Rachel Kushner, "The Flamethrowers"  (2) Jhumpa Lahiri, "The Lowland" [☆☆☆★★] (3) James McBride, "The Good Lord Bird" (4) Thomas Pynchon, "Bleeding Edge" (5) George Saunders, "Tenth of December"
 このうち、(2)はブッカー賞の最終候補作でもあったが、残念ながら Jhumpa Lahiri 最良の作品とは言いがたい。(5)は今年の初めから積ん読中。たしか Michiko Kakutani がレビューを書いていたはずだ。(4)も未読だが、全米図書賞でよく見受けられる大作家の顕彰的な意味合いがあるかもしれない。ぼくは学生時代から Pynchon は食わず嫌い。「あんなもの、読みたくない」という信頼するゼミの先輩の言葉がいまだに焼きついている。
 「大作家の顕彰」といえばノーベル文学賞が代表格だろうが、今年の Munro の受賞は、たった3冊しか読んでいないぼくも大いに納得。彼女がどんな歴史観・戦争観の持ち主かは、既読の3冊からはさっぱりわからないけれど、人間観については自信をもって断言できる。彼女は人間観察のプロだ! とことん「個人に焦点を絞」った結果、しっかり人間の本質を見すえている。
 たとえば……と "Dance of the Happy Shades" から引用しようと思ったが、まだ夕方6時前なのにもう眠くなってきた。ほんと、歳ですな。