ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Auster の “Report from the Interior” (4)

 さて、「本書の白眉は第3部〈タイムカプセル〉である」。もし Auster を専門に研究している英文科の先生方や学生たちが本書を読んだとしたら、しめしめ、ここは論文・レポートの資料に使えるぞ、と小躍りするのではないだろうか。
 たとえば1969年8月23日、Auster は、当時交際中だった女性(のちの前妻)に宛てた手紙の中でこう述べている。'For me the problem of the world is first of all a problem of self, and the solution can be accomplished only by beginning within and then ... moving without. Expression, not mastery, is the key. (中略) Stick to life, I say. I will make it my motto. Do you agree? Stick to life, no matter how fantastical, repulsive, or agonizing.' (p.260)
 ぼくはこの「宣言」が「オースターの本質を要約したものといえる」と知ったかぶりでレビューに書いたわけだが、いま読みかえしても、あながち的はずれではないような気がする。専門家のご意見はいかがでしょうか。あ、プロがこんな駄文を読んでいるわけはないですな。
 こんなくだりもある。'The social revolution must be accompanied by a metaphysical revolution. Men's minds must be liberated along with their physical existences―if not, any freedom obtained will be false & fleeting. Weapons for achieving & maintaining freedom must be created. This means a courageous stare into the unknown―the transformation of life ... ART MUST POUND SAVAGELY ON THE DOORS OF ETERNITY...' (p.250)
 その後、あるいは現在、Auster がこういう問題にどんな立場を取っているのかは知らない。が、少なくとも、これは「若き日の芸術家の肖像」を描いた「第一級資料」として、彼の現在と過去を結びつけるのに欠かせない箇所かもしれない。
 ともあれ、この第3部では、「おなじみの貧乏生活のなか、詩の翻訳やアルバイトなどで糊口をしのぎながら、のちの作品へとつながる創作活動に従事している姿がなんといっても興味ぶかい」。これについてはたぶん、ぼく以外にも多くの方が指摘されていることだろう。そこでヘソ曲がりのぼくとしては、あえてその姿を追いかけず、ぼくなりに「オースターの本質」と思えるものにこだわってみた次第である。