ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Five Women” 雑感 (2)

 突貫工事で片づけないといけない仕事が二つあり、ひとつは先週末になんとか仕上げたが、もうひとつまだ残っている。きょうはそのうち半分まで済ませた。目算ではあと5日かかりそうだ。大晦日も仕事かと思うと、毎度「宮仕えの男はつらいよ」。
 だが、この季節、宮仕えにもメリットはある。それなりに仕事をしているだけでボーナスをもらえることだ。おかげで安売りのブルーレイをまとめ買い。上の事情で超多忙中につき、コマギレという最悪の鑑賞法で楽しんでいる。
 ゆうべは『地上より永遠に』を観おわった。画質はけっこういい。たしか4回目くらいだ。『七年目の浮気』でパロディー化された有名な〈渚のラヴシーン〉では、よ、待ってました、と声をかけたくなった。陰惨な要素が強い作品だけに、定石どおりとはいえ、ああいう甘い面もないと救いようがない。
 閑話休題。"Five Women" のほうもコマギレに進み、先ほどようやく第1部を読みおえた。年の瀬に Robert Musil の短編小説を英訳で読んでいる日本人なんて、たぶん何人かはいると思うけれど、それでも五本の指で数えられそうな気がする。自己マンの極みですな。
 第1話 "Grigia" は愛と死がテーマだろうか。ヴェニス近くの山中で金鉱が再開されることになり、知人に誘われ出稼ぎに行った妻子ある男が若い女 Grigia を見そめ、やがてふたりは恋に落ちる。が、女には夫がいて……とお決まりのメロドラマ。かと思いきや、なんと恐ろしい結末が待っていた。たぶん読み間違いだろうけど、愛とは死の誘惑なり、というのが読後感だ。
 第2話 "The Lady from Portugal" はフォークロア風の物語だ。イタリアにほど近いチロル地方の山中に居城をかまえる貴族 Ketten 家の当主が主人公。彼はポルトガルから美しい妻をめとるが、Bishop と長年抗争中で戦いに明け暮れ、めったに城に戻ることがない。
 夫から見たポルトガル人の妻は、ミステリアスな存在として描かれている。It was magic. Tranquilly the woman sat there, in her rich gown, the skirt flowing down in countless rippling folds―a figure rising out of itself and falling back into itself, like the water of a fountain. And is the water of a fountain anything that can be ransomed and redeemed, can it be set free by anything but magic or some miracle, and thus issue forth wholly out of its self-borne, swaying existence? Embracing the woman, might he not suddenly be brought up short by the force of magical resistance? This was not so―but is tenderness not even more uncanny? (p.51)
 こういった描写が布石となり、やがて城内でフシギな事件が起こる一方、妻に不倫の疑惑が投げかけられ……と、こちらもメロドラマ調。が、夢と現実、幻想が入り混じったようなくだりもあり、なかなかおもしろい。愛と妄執、妄想は紙一重、というのが読んだ感想だが、第1話との共通点としては、女は謎の存在である、ということでしょうか。ひるがえって、どちらの話でも男の愛が試されている、とも言えよう。
 これは第1部でいちばん長い第3話 "Tonka" にも当てはまると思う。