ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Klingsor's Last Summer" 雑感(16)

 さて、いよいよ表題作である。雑感(1)でもふれたように、この邦訳を読んだのはなんと半世紀前、中1の時だった。今は亡き父が買ってくれた世界文学全集の第1回配本がたしかヘッセ集で、ぼくは当時からへそ曲がりだったせいか、有名な『車輪の下』や『デーミアン』よりもむしろ、『クリングソル最後の夏』のほうに心を惹かれた。
 といっても、べつに強い感動を覚えたわけではない。老人が死ぬ前に最後の恋をする話というイメージがなぜか頭に残り、いつか年を取ってから読み返そうと思ったのだ。たぶん、そのほうがもっとよく理解できるのでは、という気がしたからではないだろうか。
 というわけで、この夏休み、まだお迎えが来ないうちにそろそろ、と思って田舎に本書を持ち帰ったのだが、 A passionate summer of swift-moving life had begun. The hot days, long as they were, flared up and away like burning streamers. The brief sultry moonlit nights were followed by brief sutlry rainy nights. Swift as dreams crowded with images, the glittering weeks moved feversihly on. (p.149) ふむふむ、出だしはなかなか好調で、いい感じ。こういう夏の描写は好きだなあ。
 と思ったが、ふと本編の前に序文があるのに気づき、あわてて読んでみると、The Painter Klingsor spent the last summer of his life, at the age of forty-two .... (p.147) なに、クリングソルは老人じゃなかったのか!
 とんだ記憶ちがいである。ぼくはてっきり、「老人が……」と思い込んでいたのだが、42歳ならまだまだ人生まっ盛りじゃありませんか。それをなんでまた……しかし考えてみると、中1坊主にしてみれば「老人」と錯覚する年齢なのかもしれない。とすると、とうに還暦を過ぎた今のぼくなど超老人。いやはや参ったな、というのが読みはじめて最初の感想でした。 
(写真は、宇和島市にある和霊神社の大鳥居。石造りでは日本一という話である)。