ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alan Hollinghurst の “The Line of Beauty” (1)

 仕事のあいまにボチボチ読んでいた Alan Hollinghurst の "The Line of Beauty" を読了。ご存じ2004年のブッカー賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆] 装飾的で複雑な文体で織りなされた耽美的な禁断の世界。簡単にいえばゲイ小説である。テーマはさておき、文体の魅力がなけれ単調この上ないエピソードの連続だ。主な舞台はサッチャー時代のロンドン。上流階級の家族・社交パーティーにおける会話がにぎやかで当初こそ楽しく読めるが、要は世間話で中身がなく、しかもえんえんとつづき、やがて飽きる。このパーティー場面は非常に多い。同じく多いのが性的表現と性的シーンで、イケメンが登場するたびにその手の話になり、彼の地にはゲイしかいないのかと錯覚をおぼえるほどだ。こうした情景、人物の描写は精密だが冗長。要するに、くどい。終盤、なんとサッチャー自身がゲイの主人公とダンスをして大いに盛りあがったあと、前半との対比で暗い事件が展開。この光と影は人生の無常、不条理を感じさせ、本書いちばんの読みどころといえよう。ただし感情過多。上流社会が舞台とあって政財界に話題がおよび、終わってみればセックス、金、権力の三点セットが売りのスキャンダル小説である。ゲイが前面に出てこなければ陳腐きわまりなく、本書から得るものはなにもない。