ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Meursault Investigation" 雑感

 Kamel Daoud の "The Meursault Investigation" (2013) を読んでいる。これは去年、ニューヨーク・タイムズ紙の書評家 Michiko Kakutani が選んだ My Favorite Books of 2015 の一冊である。
 という予備知識だけで取りかかり、タイトルもろくに確認しなかった。だから 'Mama's still alive today.' (p.1) という冒頭の一文を読んでもピンと来なかった。次いで半世紀以上前に起きた殺人事件の話になり、犯人が事件のことを書いて世界的に有名になり、といったくだりでもまだ気がつかなかった。
 さらに読むと、被害者はアラブ人で、それは語り手の兄であり、犯人はフランス人だという。' .... killed by a bullet fired by a Frenchman who just didn't know what to do with his day and with the rest of the world, which he carried on his back.' (p.3) あ、これはもしかして?
 そこで改めてタイトルを見かえすと、なんだ、これはムルソーじゃないか! 表紙にもニューヨーカー誌のレビューの一節がちゃんと載っていた。'A tour-de-force reimagining of Camus's The Stranger, from the point of view of the mute Arab victims.'
 そう、これはカミュの『異邦人』の続編?なのである。やおら Vintage 版の同書をひらくと、冒頭は 'Maman died today.' (p.3) ダメですね、気づくのが遅すぎます!
 さて、続編かパロディーか知らないが、あの超名作を下地にして新たな物語を書くとは、どんな角度から(その答えは上の寸評で明らかだ)、どんな問題を提起しているのだろう。とりわけ、原作?で描かれている不条理の問題はどうなっているのか。とにかく何らかの新機軸がなければ「続編」の意味はない。
 などと考えながら取り組んでいる。ノヴェラといってもいいほどの長さなので、ほんとうはとうに読了しているはずなのだが、1日から愛媛の田舎に帰省。毎日ほとんど桜ばかり撮って過ごしていた。ちと疲れました。
(写真は宇和島市来村(くのむら)川。今回の帰省中に撮影)。