ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kamel Daoud の “The Meursault Investigation” (3)

 Camus の "The Stranger" には、冒頭以外にも有名なくだりがある。Vintage 版を拾い読みしているうちにやっと見つけた。'The judge replied by saying that .... before hearing from my lawyer he would be happy to have me state precisely the motives for my act [killing]. .... I blurted out that it was because of the sun.' (p.103)
 "The Meursault Investigation" を読みながら、この 'because of the sun' について考えた。月並みな感想だが、もし 'God is dead today.' が事実であるのなら、'I said that I didn't believe in God.' と言うのなら、極論すれば、恣意的で意味のない不条理な殺人も許される。少なくとも、そういう殺人が起こっても何らフシギではない。「汝殺すなかれ」という絶対的な掟がないからだ。'because of the sun' とは、そうした状況を文字どおり鮮やかに象徴する言葉ではないだろうか。
 つまり "The Stranger" がすぐれているのは、読み返しもせずに断言すると、「神なき不条理な時代には不条理な殺人が起こる」という現代の危機的状況を、寓話のかたちで簡潔に示した点である。この点、同書にはどこにも論理的な破綻がなく、みごとに整合性がとれているのではないか、と推測する。
 この推測が正しいものとして "The Meursault Investigation" に戻ると、作者は宗教と不条理の問題について若干、考察が足りないようにぼくには思える。
 まず、本書における不条理の典型例を挙げておこう。主人公 Harum はアルジェリアの独立直後、あるフランス人を殺害する。彼は逮捕され尋問を受けるが、相手の大佐は当の殺人ではなく、Harum が独立戦争中、レジスタンス運動に参加しなかったことが問題だと言う。' "This Frenchman, you should have killed him with us, during the war, not last week!" I didn't see what differences that made, I replied. .... and then he roared, "It makes all the differences!" .... He started stammering, declaring that killing and making war were not the same thing, that we weren't murderers but liberators, .... and that I should have done it before!" "Before what?" I asked. "Before July 5! Yes, before, not after, damn it!" ' (p.109)
 このくだりを要約してぼくはレビューにこう書いた。「同じ人間を平時に殺せば不正義だが、戦時に殺せば正義とされる、という正義の相対性の問題が提出されている」。すこぶる興味ぶかい問題だが、じつはこれ、パスカルの『パンセ』にも出てくる話である。
(写真は宇和島市来村(くのむら)川と左手、神田(じんでん)川の合流付近。ほとんど海に近い)。