2015年のギラー賞(the Scotiabank Giller Prize)受賞作、Andre Alexis の "Fifteen Dogs" を読了。この賞は日本の一般読者にはなじみが薄いかもしれないが、カナダでは最も権威のある文学賞である。
[☆☆☆★] アポロ神とヘルメス神がトロントのバーで人間性について話しあい、動物が人間の知性をもてば幸福になるかどうか賭けをする。さっそく15匹の犬で実験開始、犬たちはひとの言葉で会話するようになる。この着想はおもしろい。やがて犬たちは、犬らしく生きる道を選ぶ守旧派と、変化した現実を受け容れる新思考派に分裂、守旧派による殺戮がはじまる。この点、人間だけが正義のために敵を殺す、という動物とのちがいを端的に示して秀逸。厳しい階級序列とそれにたいする反発しかり。帰らぬ主人を本能で待つのか、正しい行為だから待つのかと考えながら五年も待ちつづける犬の話は泣ける。授かった知性を私利私欲のみに活用する犬や、詩作に興じて守旧派に嫌われる犬も、いかにも「ひとらしい犬」として存在感を発揮。しかし結局、人間の知性は犬たちに幸福をもたらすものとはかぎらない。当然の帰結であり、残念ながら人間性にかんする目新しい指摘はどこにもない。上の殺戮にしても背筋の凍るような話になったはずだが迫力不足。知性が危険な道具となりうる点をもっと掘りさげるべきではなかったか。