ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Valeria Luiselli の “The Story of My Teeth” (1)

 先日発表された2015年のロサンゼルス・タイムズ紙文学賞(Los Angeles Times Book Prize for Fiction)の受賞作、Valeria Luiselli の "The Story of My Teeth" を読了。これは今年(対象はLAタイムズ紙賞と同じく2015年)の全米批評家協会賞の最終候補作でもあった。Luiselli はメキシコの若手女流作家で、本書はスペイン語からの英訳である。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 作者の「あとがき」から言葉を借りれば、現実とフィクションの「コラボレーション」。とくれば、ラテンアメリカ文学おなじみのマジックリアリズム、あるいはメタフィクションを連想するとおり、本書もその流れを汲む作品である。世界一の競売人を自負する男が登場。マリリン・モンローの歯を入手し、自分の乱杭歯の代わりに移植したあと元の歯を、さてはそのモンローの歯までオークションにかける。歯以外の競売品についてもそれぞれ、ほら話のような由来の説明がユーモラスで楽しい。前半はとにかく奇想天外な設定で、夢とも現実ともつかぬ奇怪な事件が発生。それを後半、男の一生ともども第三者の立場から解説したのち、「現場写真」や年代記でフィクションを現実と融合させるという構成だ。その試みはかなり成功しているが、物足りない点もある。こうしたマジックリアリズムメタフィクションの技法によってしか描きえない現実、人生の真実がさっぱり見えてこないのである。まだ若い作家だ。今後に期待しよう。