ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Garth Greenwell の “What Belongs to You” (1)

 ゆうべ Garth Greenwell の "What Belongs to You" (2016) を読了。Greenwell はアメリカの新人作家で、本書は彼の処女作だが、イギリスでも4月にハードカバーが刊行。現地のファンのあいだでは、今年のブッカー賞の有資格候補作に擬せられている。
 追記:その後、本書は2016年のロサンゼルス・タイムズ紙文学賞の最終候補作に選ばれました。

What Belongs to You

What Belongs to You

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[☆☆☆★★] 誤解を恐れずに書くと、小説の世界ではゲイは市民権を得ないほうがいい。タブー視され、軽蔑や嫌悪の対象となり、社会の片隅に追いやられる異端の存在であればこそ、深い苦悩と絶望が生まれ、自分とはなにか、愛とはなにか、真剣に考えざるをえなくなる。そこに文学が生まれる。その意味で本書は真のゲイ小説である。舞台はブルガリアの首都ソフィア。現地の大学で教鞭をとるアメリカ人講師がある青年と出会い、危険な関係におちいる。強烈なラヴシーンに幻惑、圧倒されるが、それより禁断の愛を通じて男が相手の、おのれの内的矛盾、エゴイズムを直視している点を評価したい。愛と欲望や打算は紙一重。本来エゴイスティックな存在である人間にとって、純粋な愛ははたして可能なのか。ふたりの男の愛のバトルは、ことによると男女の場合以上に激しく、それゆえ愛の限界をいっそう思い知らせるものかもしれない。第二部では過去と現在のできごとが交錯するなか、上のアメリカ人と優しかった父との断絶が紹介される。家族愛にもまた限界があるのだ。いずれにしろ、主人公の男はひとに心から愛されたことがなく、自分もまたひとを心から愛することができない。そのいかんともしがたい現実に傷ついた心情が、さりげない風景描写を通じてしみじみとつたわってくる。刺激的なトピックとは裏腹に味わいぶかい作品である。