ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Yaa Gyasi の “Homegoing” (1)

 ガーナ出身でアメリカ在住の新人作家、Yaa Gyasi の "Homegoing" を読了。先月7日に刊行されたばかりの作品で、今年のブッカー賞候補作の資格があるかどうか、あちらのファンのあいだで話題になっている。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] どの国にも、どの民族にも「教科書が教えない歴史」がある。つまり一般に知られざる史実だが、それがアメリカの黒人にかかわるものとなると、詳細はさておき、裏面史の内容はおおよそ見当がつく。小説や映画など、いままで数多くの作品で扱われてきたからだ。それゆえ新機軸を打ちだしにくい題材でもある。その点、本書はまず、あるガーナ人一家を中心にすえているところが目新しい。しかも舞台を本国とアメリカに分割。18世紀後半から21世紀の現代まで、それぞれのできごとを交互に描いた長大な歴史小説である。当然、主人公は時代と場所ごとに交代。その日々の記録が短編小説の味わいで、個人的体験の集積が家族の歴史であり、血の一滴が大河の流れとなる。奴隷が解放奴隷へ、そして差別を受けながらも一般市民へと立場を変えていく。いまの自分は歴史が、時間の流れが生みだしたものである。けっして新しいメッセージではない。が、八世代にわたる声なき民の声を通じて、自分史、家族史、さらには民族や国家の歴史が次第に浮かびあがってくる。短編集にして長編。精緻にして壮大。たいへんな力作である。