ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lisa O'Donnell の “The Death of Bees” (2)

 知らなかった。英連邦作家賞(Commonwealth Writers' Prize)がなくなってしまっていたとは。1989年に始まり、2012年に英連邦作品賞(Commonwealth Book Prize)と改称。ところが翌年、この "The Death of Bees" をもって、長いといえば長い歴史に幕を閉じていた。
 作家賞時代はまず4つの地域(アフリカ、カナダおよびカリブ海、ヨーロッパおよび南アジア、東南アジアおよび南太平洋)、作品賞時代は5つの地域(アフリカ、アジア、カナダおよびヨーロッパ、カリブ海、太平洋)でそれぞれ部門賞が選ばれ、さらに大賞が決定されるというトーナメント方式は、いま思うと文学の世界における「勝ち上がり」がおもしろかった。
 ある地域で優秀作が目白押しだった場合にワリを食い、そこの部門賞に選ばれなくても、ほかの地域の部門賞よりすぐれた作品もあったのでは、というのがこの方式の欠点だろうが、その代わり地域色が豊かだったことは間違いない。グローバル化の煽りを食らったということでしょうか。
 ぼくは例によって不勉強で、大賞、部門賞ともども受賞作をまめに追いかけていたわけではない。が、それでもブッカー賞の候補作と重複することが多く、同賞のロングリストに選ばれそうな作品を予想するのに便利だった記憶がある。
 ただ、作品賞となってからは、その傾向が変化していたかもしれない。詳しい事情はわからないし、あまり興味もないが、なんとなく寂しいことだけは確かだ。
 さて本書だが、雑感とレビューに付け加えることはあまりない。「主人公の少女 Marnie の妹 Nelly が父親を枕で窒息死させる」というのは、じつは……という種明かしがあったことくらいかな。とにかく「3分の2あたりまではすこぶる快調」なのに、最後は「無難だが常識的なテーマで」尻すぼみ。なんだか作家賞の歴史と似たような流れで終わってしまった。
 以下、最後の英連邦作家賞受賞作、Aminatta Forna の "The Memory of Love" のレビューを再録しておこう。

The Memory of Love

The Memory of Love

[☆☆☆★★★] 静かな愛の回想に始まり、恋愛を通じて激動のシエラレオネの現代史を象徴的に描いたあと、最後はまた愛の思い出へと静かに戻っていく秀作。主な舞台はフリータウン。死の床にある大学教授がイギリス人の心理カウンセラーを相手に、若いころ、同僚の教授の妻に恋をした話をする。一方、カウンセラーと親交のある外科医も内戦時代の恋人の回想を始める。また一方、このカウンセラーもイギリスに妻子がありながら現地の娘と恋に落ちる。いずれも表面的にはメロドラマそのものだが、やがて3つの恋は一つに結びつき、シエラレオネの過酷な政治状況を映しだすとともに、その中で懸命に生きつづけた人々の愛と不信、裏切り、心の傷が、さまざまなエピソードを通じて次第に浮かびあがる。感情を抑えた語り口だが、時に激しい暴力シーンが入り混じり慄然とする。そのコントラストが鮮やかだ。主な事件を回想や第三者の報告など、いわば間接的に紹介する手法もみごと。ともあれ、個人の恋愛が国家の歴史や運命に翻弄されるとき、その恋愛はたとえようもない深みと重みを増す。しみじみと語られる愛の思い出に、しばし言葉を失ってしまう。英語も内容をよく反映した味わい深い文体である。
(写真上は、宇和島市内にある高野長英の隠れ家。長英は寛永元年(1858)から約2年間、宇和島藩伊達宗城の庇護により、藩内の2ヵ所に潜伏していた。写真下は西予市内にある隠れ家)