ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Hot Milk" 雑感

 Deborah Levy の "Hot Milk" を読んでいる。ご存じ今年のブッカー賞候補作だが、イギリス各社のオッズによれば1番人気のようだ。
 ちなみに、ほかに人気を集めているのは、Ian McGuire の "The North Water"、J. M. Coetzee の "The Schooldays of Jesus"、Paul Beatty の "The Sellout" [☆☆☆★★★]、Elizabeth Strout の "My Name Is Lucy Barton" [☆☆☆★★★] といったところ。ただ、オッズどおりに有力候補がショートリストに残ったためしはあまりないかもしれない。
 ぼくのアンテナに登録している "The Mookse and the Gripes" を覗いてみると、例によってケンケンガクガク、いろんな人がいろんな意見を述べている。斜め読みするだけでも、お祭り気分が伝わってきて楽しい。ここでもやはり、上に挙げた作品は注目されているようだ。
 さて、この "Hot Milk" は裏表紙の紹介によると、Deborah Levy にとって、2012年のブッカー賞最終候補作 "Swimming Home" 以来、4年ぶりの長編小説。満を持しての発表かもしれない。
 そう思えるのも、うまいなあ、というのが第一印象だからだ。主人公は25才の女 Sofia。ロンドンのコーヒー店で働きながら人類学の博士論文を書いていたが、母の Rose が長らく原因不明のまま歩行困難で、最近は看護に専念。最後の頼みの綱として、スペインの名医のクリニックに母を入院させる。父はとうに離婚して絶縁状態。
 ううむ、いつもながら下手くそな粗筋紹介ですな。これでは、どこが「うまい」のかサッパリわからない。が、今日はそれを説明する時間がない。以下、"Swimming Home" の昔のレビューでお茶を濁しておこう。

Swimming Home

Swimming Home

[☆☆☆★] 夏の夜、フレンチ・リヴィエラの山道を疾走する車。別荘のプールで全裸で泳ぐ若い女。開幕早々、そんな派手なシーンが続出して幻惑されるが、やがて生と死という古典的なテーマが浮かびあがる。ただし、その提示の仕方はかなりトリッキーだ。上記の女キティーのほか、別荘に宿泊している有名な詩人とその妻子、友人夫妻などが交代で登場し、それぞれの人生模様が鋭いタッチで鮮やかに描かれる。夫婦のすれちがい、若者の恋、欲望、鬱屈した思い。観光地にふさわしく、いろいろなテーマで撮影された完璧なショットの連続である。そんな静かな光景の中に突然、感情の嵐が吹き荒れる。キティーが何度も異常な行動に走りながら詩人に急接近、冒頭シーンへと戻る。その流れに巧妙なトリックが仕掛けられているわけだが、真相を知っても古典的なテーマだけにインパクトはさほど受けない。途中のみごとなショットで持っているような作品だ。英語は標準的で読みやすい。
(写真は、宇和島市泰平寺。大村益次郎住居跡から神田(じんでん)川ぞいに徒歩3分)