ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Deborah Levy の “Hot Milk” (1)

 今年のブッカー賞候補作、Deborah Levy の "Hot Milk" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] ここには感動はたぶん、ない。自分が自分を見うしない、自分ではないものに縛られ、自分を愛しているはずの人間、自分が愛しているはずの人間との関係があやうい若い女。介護が必要な母の治療のために訪れた南スペインの海辺で、母と別れた父の住むギリシャの街で、彼女は考える。迷う。自分とは、自分の人生とは、愛とはいったい何なのだろう。ゆれ動く微妙な心理が静かな、しかし鮮やかなショットで風景に映しだされる。出会った男たち、女たちとのふれあいのなかで劇的な事件が起こり、感情が高まり、落ち込み、また爆発し、純化される。本書はこうした濃密な心象風景を、さまざまな思いの去来する一瞬の情景を楽しむ本である。それを絶妙かつ的確にとらえた繊細なタッチに読みほれてしまう。かりそめの中途半端な人生、曖昧で不確かな現実を象徴するエピソードが連続する。と、ふと行間に目をとめ、自分自身の人生をふりかえりたくなるかもしれない。そこにも感動はないかもしれない。が、心に浮かぶ風景はあるはずだ。本書は、ヒロインに共感できれば、そうした記憶の引き金になるような作品である。

(写真は、宇和島市泰平寺。ぼくは小学生のころ、この境内でよく遊んだ)