ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The North Water" 雑感

 まず "All That Man Is" の最後の補足から。ぼくが思わず落涙しそうになったのは、第9話の幕切れ寸前だ。過去に心臓手術を受け、今また交通事故にあった70代の老人が退院後、レストランで娘と食事をしている。'In a sense this love he feels [for his daughter] just makes it more awful, not less, that this is all going to end. It is extraordinarily painful to think that there will be a day when he sees her for the last time.' (p.436) 説明は必要ないだろう。
 さて、おととい書いたように、今いちばん時間を割いて読んでいるのは Ian McGuire の "The North Water"。ご存じ今年のブッカー賞候補作である。「いちばん」といっても昨日は疲労困憊。30ページしか読めなかった。
 それから、ストーリーを忘れるといけないので、Sandor Marai の "Embers" (1942) をカタツムリ君ペースで。この作品については、来週あたり紹介しようと思っている。
 あと、寝床で山田詠美の『風味絶佳』。ぼくはべつに彼女のファンではないが、就眠儀式に短編集はうってつけ。長編はいけません。『海辺のカフカ』を読みおえるのに、ぼくは2年もかかってしまった。 
 なんだか駄文ばかり綴っている。某先生のお叱りの声が聞こえてきそうだ。でも、亡き恩師なら草葉の陰で許してくれるかも。それはともかく、この "The North Water"、ほんとにブッカー賞候補作なのかな、という気がしてならない。
 おもしろいことはおもしろい。page-turner と言ってもいいかもしれない。事実、各社オッズによると、本命はおおむね Deborah Levy の "Hot Milk" (ぼくの評価は☆☆☆★★★)。そして対抗が "The North Water" となっているようだ。
 が、今のところ、これは文芸エンタメじゃないかしらん、とぼくは思っている。人生の重大な問題を取り上げ、文学的に深く掘り下げる、という今時まったく流行らないシリアス路線ではなさそうだし、さりとて "Hot Milk" や "All That Man is"(☆☆☆★★★)のように、人生のある瞬間や局面を鮮やかに描き、読者自身の人生をふりかえらせるという〈人生しみじみ型〉でもない。後者には、今回の賞レースで穴馬と目されている Elizabeth Strout の "My Name Is Lucy Barton"(☆☆☆★★★)も入るだろう。
 上の2タイプは、ひとつにまとめてテーマ重視型と言えるかもしれない。が、この "The North Water" は、どうやらストーリー重視型のようである。テーマよりも物語のおもしろさが主眼、ということだ。
 こういうタイプの小説が過去、ブッカー賞にノミネートされなかったかというと、べつにそんなことはない。むしろ、たくさんあるはずだ。が、たとえば Hilary Mantel の "Wolf Hall"(☆☆☆☆★)と、Sarah Waters の "The Night Watch"(☆☆☆☆)の★ひとつの差は何かと言うと、テーマの深さだと考えている。
 そうか、"The Night Watch" の例をふりかえると、文芸エンタメ路線だからブッカー賞にはふさわしくない、と決めつけてはいけませんでしたね。
(写真は宇和島市神田(じんでん)川。海が近い)