ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Embers" 雑感 (1)

 まず、今年のブッカー賞ショートリストについて。13日の昼に勤務先のパソコンで〈ぼくの予想〉を掲載したあと(いかん、これが社長の目にとまるとマズイ)、帰宅して The Mookse and the Gripes を覗いたら、もうショートリストの discussion が始まっていた。いったい、いつどこで情報をキャッチしたんだろう、と思うほどの速さでビックリした。
 上の記事掲載後、ガーディアン紙の予想をチェックしたところ、ぼくが「ゲートインするのはむずかしそう」と書いた "The North Water" と、員数合わせのためにしぶしぶ追加した "The Schooldays of Jesus" を選んでいる。それはないんじゃないの、と思ったら案の定、両者とも落選。
 文芸エンタメ路線の "The North Water" は、従来の入選や受賞傾向からして当然の結果だろう。Coetzee に関しては「昔の名前で出ています」。ノーベル賞作家だから注目を集めるだけのような気がする。あの年齢(76才)でよく頑張っているなと感心する一方、「もう旬の作家ではないと思う」。Coetzee ファンのみなさん、ごめんなさい。
 ぼく自身の予想でいえば、"My Name Is Lucy Barton" が落ちたのは意外かつ残念。ただ、"Hot Milk" や "All That Man Is" と同じ〈人生しみじみ系〉なので、ワリを食ったのかもしれない。ストレートな回想が多い点など、ひねりのある両者にくらべて一歩譲ると判断されたのだろう。
 上のガーディアン紙の記事には、'how the literary times are changing' という副題がついている。たしかに文学は新しい題材を扱うことで変化するものだが、それと同時に、文学には人間の不変性、永遠性を追求する側面もあるはずだ。何が変わり、何が変わらないのか。そのことを考えるのも文学者の仕事のひとつだろう。
 なお、同紙には 'Why are Irish publishers shut out of the Man Booker prize?' などの続報も載っていて、なかなかおもしろい。興味のある方は、ぼくのアンテナをどうぞ。
 きょうの題目と関係ないことばかり書いてしまった。このところ Sandor Marai の "Embers" をボチボチ読んでいる。今は亡きカナダの Kevin 氏が2014年の年間ベストテンに選んでいた作品だ。
 彼のブログ KevinfromCanada はわりとまめにチェックしていた。上の The Mookse and the Gripes もそこで知った。年間ベストやブッカー賞、ギラー賞、それから Kevin 氏をはじめ、数人のファンが選ぶ Shadow Giller Prize などの情報はじつに有益だった。Joseph Boyden の "Through Black Spruce"(☆☆☆☆)や、Elizabeth Hay の "Late Nights on Air"(☆☆☆☆)、Alexander MacLeord の "Light Lifting"(☆☆☆☆)、Nancy Richler の "The Impossible Bride"(☆☆☆☆)など、みんな彼に教えてもらった。
 昨年、本ブログを再開して久しぶりに KfC を訪れたところ、彼にしては珍しく更新が途絶えていた。そこへ今年の4月、突然の訃報。ほんとうに驚いた。ぼくの知るかぎり、Kevin 氏は世界有数の文学ブロガーだった。メールのやりとりもしたことはないが、謹んでご冥福をお祈りします。
 さいわい、今月8日には Reading Matters の Kim 氏が今年のギラー賞ロングリストを KfC に掲載。どうやら Shadow Guillar Prize も復活しそうである。ブログ主の没後も友人によってブログが更新されるとは、心温まる話だ。
 きょうは "Embers" そのものにふれることができなかった。感想がまとまったら次回に。
(写真は、宇和島市来村(くのむら)川の河口付近からながめた板島橋と、宇和島道路の高架橋。背景は亡父の愛した山々)