ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ottessa Moshfegh の “Eileen” (1)

 今年のブッカー賞最終候補作、Ottessa Moshfegh の "Eileen" をゆうべ読了。ひと晩寝かせたところで、さて、どんなレビューが書けますやら。

[☆☆☆★] なるほど、これはやっぱり青春小説だったのか、と最後に納得。しかもテーマは通過儀礼という定番だが、途中、それをほとんど感じさせないストーリー・テリングが秀逸。老婦人のアイリーンが半世紀も昔、ニューイングランドの田舎町で過ごした最後の日々を回想する。なにやら大事件が起きたらしい。それはいったいなにか。この興味だけで終盤まで引っ張るとは恐れいった。しかも事件の輪郭さえつかめない。娘時代のアイリーンをはじめ、勤め先だった少年院の同僚やアル中の父親など、顔を出すのは性格・感情ともに単純化された人物ばかり。それだけに彼らが極端な言動に走っても説得力があり、小さなエピソードの混ぜぐあいもうまく、つい話の流れに乗せられてしまう。次第に盛りあがるサスペンスもおみごと。これならさぞ衝撃的な事件が待っていることだろう。実際、それは衝撃的である。が、その真相を知ったからといって得るものはなにもない。要するに、青春の嵐だったというだけだ。尋常ならざる嵐ではあるが、それに見合った大きな人間的成長ないし人生の真理の発見が示されなけれは、ただの嵐にすぎないのである。