ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Colin Barrett の “Young Skins” (2)

 本書を買い求めたのは半年前。そのときまで、フランク・オコナー賞が2015年で廃止されていたとは知らなかった。ブログの休止期間中、海外文学から離れていたからだ。
 11年間にわたる同賞の歴史の中で、ぼくはこれで受賞作を6冊読んだことになる。わりとまめにフォローしていただけに、やはり一抹の寂しさを覚えてしまう。べつに事情を知ろうとは思わないが、短編集といえば長編より脚光を浴びる機会が少ないだけに、賞そのものが忘れられつつあったのだろうか。
 さてこの "Young Skins"、記念すべき?最後の受賞作ではあるが、お決まりのホメ言葉「珠玉の短編集」と呼ぶには、ちとためらってしまう。最初の4話がいささか弱いからだ。
 一方、雑誌への初出順かどうかは不明だが、尻上がりに出来がよくなっている。傑出しているのは第5話 "Calm With Horses" だが、ぼくのお気に入りは、じつは最後の "Kindly Forget My Existence"。
 酒場で二人の男が酒を飲みながら、葬列がやって来るのを待っている。二人は若い頃バンドを組んでいた仲間で、やはりバンドのメンバーだった女の訃報を耳にするが、葬儀には参列しない。二人とも女と関係があったのだ。
 ううむ、こんなふうにネタを割ってしまうと、おもしろくも何ともない。よくある話じゃん、どこがいいの、と言われそうだ。そこでぼくはこう書いた。「バーの前を過ぎゆく葬列に青春の苦い思い出をよみがえらせる。平凡なテーマから非凡な一瞬の光景が生まれるという、短編ならではの醍醐味である」。 
 文体は異なるが、ちょっとヘミングウェイ風かな。山川方夫の『夏の葬列』も思い出した。Colin Barrett は34才の新人作家。本書が処女短編集である。またどこかで名前を目にしたいものですな。
(写真は宇和島市明源寺。真教寺のすぐ近くにある)