ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Another Brooklyn" 雑感

 ゆうべ、遅まきながら『言の葉の庭』をブルーレイ盤で観た。現在、レンタル店では借りられっぱなし、という話を同僚から聞き、へえ、やっぱり評判どおりの出来なんだ、とさっそくゲット。よかった、すごく。『君の名は。』も観たくなったが時間がない。
 寝床の中では、小川洋子の『海』を読みはじめたところ。川上弘美の『センセイの鞄』がすばらしかったので、同じく長年の宿題だった『博士の愛した数式』に取りかかったのだが、これはいけません。寝床では、どんな名作でも10分間が限度。すぐに眠くなってしまい、『数式』は通算3度目の挫折。そこで短編集の『海』に切り替えた。『センセイの鞄』を通読できたのは、短編集の味わいもある長編だったからだろう。
 きょうは久しぶりに日曜出勤。電車の中で、今年の全米図書賞の最終候補作、Jacqueline Woodson の "Another Broolyn" を読んでいた。なかなかいい。
 ブッカー賞とくらべ、ぼくは全米図書賞にはそれほど執着がない。過去の受賞作を catch up しても、最近のものはあまりおもしろいと思ったためしがないからだ。Louise Erdrich の "The Round House" にしても☆☆☆★★★。発表前のあちらのファンの盛り上がりもイマイチですな。だからこれまで最終候補作だけ何冊か、受賞作も気が向けば、という程度しか追いかけていない。
 この "Another Brooklyn" はジャケ買いです。表紙の紹介によると、Woodson は National Book Award-winning author とのこと。ぼくは不勉強で知らなかった。ネットで調べたところ、彼女は2014年、"Brown Girl Dreaming" という作品で児童文学部門賞を受賞している。さっそく注文しておきました。
 さて表題作だが、another とは、主人公の女性が少女時代に過ごした Brooklyn を再訪、昔の思い出を綴った話だから、という意味のようだ。と思って読んでいると、こんなくだりが出てきた。Everywhere we looked, we saw the people trying to deam themselves out. As though there was somewhere other than this place. As though there was another Brooklyn. (p.77)
 苦悩に満ちた現実の街ではない理想郷、といったところでしょうか。それはさておき、最初は記憶の断片がバラバラすぎて何のことやらわからなかったが、とりあえず読んでいるうちにジグソーパズルのピースが集まり、やがて絵柄が見えてきた。
 上のくだりの we とは、ヒロインの少女 August とその弟で、2人は安アパートの3階の窓から街を見おろしている。彼らは Brooklyn 出身の父親に連れられ、テネシーからこの街に引っ越して来た。母親はいない。自分の弟がヴェトナム戦争で戦死したあと、異常な言動が目立ちはじめ、一緒に生活できなくなったのだ。絵柄の一つである。
(写真は、宇和島市来村(くのむら)川からながめた古城山。西園寺宜久が現在の宇和島城の城主となる前、居城をかまえていたところ)