ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ali Smith の “Autumn” (1)

 ゆうべ、仕事の合間にボチボチ読んでいた Ali Smith の "Autumn" を読了。風呂に入っているうちに、レビューの書き出しだけひらめいた。さて、どんな続きになりますか。

[☆☆☆★★] スコットランド独立や、移民の増大、EU離脱など、国論を二分する問題でゆれ動くイギリス。かつての大英帝国の栄光は残滓すらとうに消え、いまや冬の時代を迎えつつあるかもしれぬ時期、つまり秋。本書に散見されるイギリス現代社会への風刺は、そうした〈秋の時代〉を描いたものだろう。このとき、百歳を超えた老人ダニエルが療養所でこんこんと眠りつづけている。そのダニエルを足繁く見舞う若い女エリザベス。本書は、エリザベスの幼い娘時代にはじまるふたりの交流と、混乱に満ちた現代、さらには、美術史専門の学者である現在の彼女がとらえた1960年代の状況を織りまぜ、駆け足でイギリスの最近50年史を総括した作品である。少女と老人のふれあいはハートウォーミング。お役所仕事にキレた女の奮闘ぶりはユーモラス。ポップアートの説明はリズミカル。三つあわせて文学的コラージュそのものといえよう。最後、冬の初めに咲いた美しいバラは、作者が祖国にたいしていだく、かすかな希望を象徴しているのかもしれない。