ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ali Smith の “Autumn” (2)

 本書には副題があり、"Seasonal 1"。してみると、これは4部作の第1巻ということなのか。
 ただし、この副題、ぼくの読んだハードカバーにはなく、念のためアマゾンUKを検索したところ、そちらの画面上のタイトルにも付いていない。まさか日本だけってことはないでしょうね。
 ともあれ、"Autumn" と題されているわりには、なかなか秋の話題が出てこない。てっきり小津の『秋日和』のような物語だろうと思い込んでいたぼくは拍子ぬけ。「なぜ秋なのか」。上のように「副題」にまでだわってしまった。四季物語のひとつなら、べつに秋からスタートしてもおかしくないからだ。たぶん。
 いまページをパラパラめくると、本書は3部構成。各章のおわりに、秋の景色がちらっと出てくる。最後は冬の初め。本編の時間進行を暗に示しているのかもしれない。
 その本編の時代は、1960年代や90年代、2000年代の過去も織りまぜられるものの、基軸になっているのは2016年のまさに現代。イギリスはこんな状況にある。All across the country, people felt it was the wrong thing. All across the country, people felt it was the right thing. All across the country, people felt they'd really lost. All across the country people felt they'd really won. All across the country people felt they'd done the right thing and other people had done the wrong thing. All across the country, people looked up Google: what is EU? All across the country, people looked up Google; move to Scotland. (p.59)
 この All across the country で始まるセンテンスが、えんえん3ページも続いている。というわけで、ぼくは「なぜ秋なのか」と無い知恵を絞ったあげく、レビューにこうまとめた。「国論を二分する問題で揺れ動くイギリス。かつての大英帝国の栄光は残滓すらとうに消え、いまや冬の時代を迎えつつあるかもしれぬ時期、つまり秋。本書に散見されるイギリス現代社会への風刺は、そういう〈秋の時代〉をえがいたものだろう」。
 ちと強引だったでしょうか。
(写真は、宇和島市立明倫小学校の通学路に面した散髪屋さん。1年生の4月初め、この角まで担任の先生が見送ってくれた。店内のようすもうっすら憶えているが、何より三色のサインポールがとても印象的だった。このまま、いつまでもレトロな建物であってほしい)