ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Juan Gabriel Vasquez の “The Sound of Things Falling”(2)

 やっと2回目を書く時間が取れた。しかし読みおわってから一週間。早くも記憶が薄れかかっている。ほんとに☆☆☆★★★でよかったのかな。
 じつはレビューを書きながら、最後の★を消したり加えたり、ずいぶん迷ってしまった。たかが5点、されど5点。
 結局、途中の異様なサスペンスと、高まるテンションにぐいぐい引き込まれた点を考慮して、いくぶん甘めに評価。ためらった理由は、ミステリ風の作品の通例で、はたしてこの謎は解明に値するものなのか、という一抹の疑問を捨てきれなかったからだ。
 その疑問はいまでも残る。が、「彼の国の闇は、さほどに深いものなのか」、と考えればいちおう納得。事件の謎が解き明かされる過程で、「麻薬の密輸と暴力に彩られたコロンビアの暗黒の歴史が次第に浮かび上がる」。彼らには深刻な問題をはらんだ謎だったのである。
 これはすごい、と思わずうなったシーンがある。主人公の青年 Antonio が、殺された男の娘 Maya ともども、麻薬王 Pablo Escobar の邸宅内に実在した動物園の跡地を訪れたとき、突然、カバが目の前に現れる。Maya was already out of the jeep, in spite of the downpour that was still falling and in spite of a wooden fence between us and the piece of land where the creature was. Its hide was dark iridescent grey, or that's how it looked to me in the diminished afternoon light. The raindrops hit and bounced off as if they were falling against a pane of glass. The hippopotamus, male or female, juvenile or full-grown, didn't bat an eyelid: it looked at us, or looked at Maya who was leaning over the wooden fence and looking at it in turn. (p.272)
 二人は子供のころ、ほぼ同じ時期に親に連れられ動物園に来たことがある。それゆえ、このカバは二人にとって、思いがけない過去との対面という意味をもつ。それが土砂降りの中とは、実際の場面を想像すると気が遠くなりそうだ。
(写真は、宇和島市宇和津小学校前の街並み。昔は夜になると電柱に裸電球が1個ともっているだけで、この通りは文字どおり闇の中。とても怖かった)