ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2017年ブッカー国際賞受賞作・David Grossman の “A Horse Walks Into a Bar”(1)

 順番から言うと、きょうは Elizabeth Strout の "Anything Is Possible" の話を続ける日だが、その前に、ゆうべ読みおえた David Grossman の "A Horse Walks Into a Bar"(2016)のレビューを書いておかないといけない。
 Grossman はイスラエルの作家で、本書はヘブライ語からの英訳版。ご存じ今年のブッカー国際賞(The Man Booker International Prize)受賞作である。

A Horse Walks into a Bar

A Horse Walks into a Bar

  • 作者:Grossman, David
  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆☆] 最初は何のことかよくわからなかった。舞台はイスラエルの小さな町のナイトクラブ。ステージの上で、スタンダップコメディーの芸人が速射砲のごとくジョークを飛ばしつづける。観客同様、その話術に思わず引き込まれるが意図は不明。客席には、芸人の子供時代の旧友知人もいる。一人は、芸人の現在の姿を見て感想を述べてほしいと頼まれた元判事。ショーと平行して元判事の回想が始まる。饒舌と笑い、芸人と客のナンセンスな掛け合いに、妻を亡くした男の悲哀が混じる。このコントラストはみごとだが、やはり意図は不明。しかし芸人のネタが、少年時代に参加した軍事キャンプへと移ったあたりから全貌が見えはじめる。それまでのショーは観客を、読者を惹きつけるための前座の芸。元判事の知らなかった昔の事件が、しゃべくり独演のかたちで再現される。ますますボルテージが上がり、八方破れのジョークが炸裂するなか、今は亡き父や母の胸をえぐるような思い出が語られ、涙と笑いの一大狂騒曲が繰りひろげられる。軽い芸を期待していた観客は席を立つが、芸人は人生の意味を、自分のアイデンティティを問い直しつづけ、元判事も自分を見つめ、そんな話に読者のほうはすっかり夢中。少なくとも自伝小説の中で、今までこんなコメディーショー、こんなド迫力の話芸に接した記憶はとんとない。文字どおり圧倒されてしまった。しかも最後、エゴイズムという人間存在の本質をえぐり出すオマケつき。〈サンデー・タイムズ紙〉の評どおり、まさに「衝撃的な傑作」である。